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かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

OEK「もっとカンタービレ♪」第23回 井上道義プロデュース 新作能「大魔神」

OEK楽団員オールプロデュースによる「もっとカンタービレ」シリーズ。しかし今回は楽団員ではなく、OEK音楽監督の井上道義マエストロがプロデュースします。しかも自身の新作「能」とクラシック音楽のコラボレーション! なんとチャレンジングな企画でしょう。

プログラム解説および井上監督自身によるプレトークによると、井上さんは「能」に関しては知人がいたり金沢で接したりして身近なものには感じていると。ただ、装束が豪華すぎるとか、話があまりにも古い物語ばかりだとか、謡が解りにくいとか、囃子方が流派により違いすぎるとか、いくつかの疑問があるとのこと。で、そうした疑問に対する自分なりの回答として、今回の新作能に挑戦したのだそうです。

能の典型的なあらすじのひとつに、偉大な存在だった死者が亡霊となって現れ、現世の人間に何事かを語って去っていくというものがあります(夢幻能)。今回の井上さんの「能」もそうしたあらすじでした。ただし舞台は現在。故岩城宏之OEK初代音楽監督(永久名誉音楽監督)が「大魔神」となって現音楽監督の井上さんの夢枕に現れ、OEKに関して、また芸術への取り組み方に関して「死者からの語り」がなされるのです。

音楽は囃子方・望月太喜之丞さんとOEK管楽器セクションの共演です。冒頭の伊福部昭大魔神」は井上さん自身がピアノを弾くなど(ちょろっとだけでしたが)けっこうがっつり演奏。武満の室内協奏曲は劇中で断片的に使われていて、あまり印象がないのですが、最後のモーツァルトのグラン・パルティータはよかった。岩城さんとの対話の後、井上さんが、いまやりたいこと、いまやるべき音楽、いま誇れる仕事としてこの曲のアダージョを演奏したのです。加納さんの歌い上げるオーボエが素敵でした。最後はカーテンコールのような形で舞台上に全員が乗り、グラン・パルティータの終楽章で大団円。

というわけで「死者からの語り」という枠組みは確かに「能」です。しかし、物語は井上さんのまったくの普段口調によって語られ、そうした井上さんの演技があまりにもストレートで印象的だったためか、井上さんのひとり芝居(プラス愉快な仲間たち)といった趣きが強いです(笑)。言うならば能の要素を取り入れた「ミッキー劇団」。能楽師の渡邊荀之助さん・濱田寿法さんの舞、所作、発声などは、さすが能のフォーマットだと感心しますが、それらはあくまでミッキー劇団の演出の一手法。「大魔神」岩城さんに扮した渡邊荀之助さんが、訥々と井上さんに語りかけるクライマックスシーンでは、台詞は完全に口語に改められ、もはや能の装いはありません。

いや、おかげで内容は完全に理解できたのでありがたかったんですけどね。少々井上さんの手前味噌的な感じは否めませんが(笑)、内容的にも平易でおもしろかったです。

ただ、全編通して(井上さんのプレトーク含めて)1時間ちょいというのはいかにも短い。せめてお能の前に、なにか室内楽を単独で1曲演奏してくれてもよかったのではないかと…。まあ、初めての試み(しかも相当冒険的な・笑)ですから、いろいろ課題が出てくるのは当然のこと。今後に期待したいと思います。

劇中、井上さんと岩城さんの実話エピソードに触れられていて、そうしたふたりの結びつきを再確認できたことはよかったですね。岩城さんご夫妻が井上さんご夫妻の仲人をしたとか。なお、岩城さんご夫婦はこれに懲りて、以後一切仲人を引き受けなかったそうですが(笑)。


オーケストラ・アンサンブル金沢楽団員オールプロデュース!「もっとカンタービレ♪」
第23回 井上道義 能へ問いかける 新作能大魔神
Orchestra Ensemble Kanazawa "Motto Cantabile" Vol.23
Noh "Daimashin" produced by Michiyoshi Inoue

日時:2010年9月8日(水)19:00開演 Wednesday, 8 September 2010 at 19:00
会場:石川県立音楽堂交流ホール Ishikawa Ongakudo Interchange Hall

指揮・語り・構成・演出:井上道義
舞・語り:渡邊荀之助
舞:濱田寿法
囃子:望月太喜之丞
演奏:オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー

演奏曲目:
伊福部昭:「大魔神」より No.1-2,17
 ~Fl-I:岡本えり子/Fl-II:名雪裕伸/Ob:水谷元/EH:加納律子
  Cl:遠藤文江/B.Cl:鈴木生子/Fg:渡邉聖子/C-Fg:柳浦慎史/
  Hr-I:金星眞/Hr-II:森利幸/Tp-I:藤井幹人/Tp-II:小野美海/
  Tb:西岡基/Per:望月太喜之丞/Electone:黒瀬恵/Pf:井上道義

武満徹:室内協奏曲
 ~Fl-I:岡本えり子/Fl-II:名雪裕伸/Ob:加納律子/Cl:遠藤文江/
  B.Cl:鈴木生子/Fg:渡邉聖子/Hr-I:金星眞/Hr-II:森利幸/
  Tp-I:藤井幹人/Tp-II:小野美海/Tb:西岡基/Sax:作田聖美/
  Sarrusophone:柳浦慎史

■W.A.モーツァルト:13管楽器のセレナード「グランパルティータ」より
  第3楽章 アダージョ
  第6楽章 主題と変奏 アンダンテ(第6曲)
  終楽章 フィナーレ モルト・アレグロ
 ~Ob-I:加納律子/Ob-II:水谷元/Cl-I:村井祐児/Cl-II:遠藤文江/
  Basset Hr-I:鈴木生子/Basset Hr-II:渡邊一穀/Fg-I:柳浦慎史/
  Fg-II:渡邉聖子/Hr-I:金星眞/Hr-II:森利幸/Hr-III:山田篤/
  Hr-IV:北川佳代子/Cb:今野淳