かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

パコと魔法の絵本

最高! 現時点で今年のマイベスト作品であります。

原作は、後藤ひろひとさんの舞台「ガマ王子vsザリガニ魔人」。ストーリー自体はシンプルでわかりやすいものです。偏屈で超ワガママな会社社長・大貫は入院先の病院でも嫌われ者の「クソじじい」。しかし、事故の後遺症で一日しか記憶が保てない少女パコに出会ってから、大貫の心に変化が現われます。パコの記憶に思い出を残してあげたいと願う大貫は、パコの愛読する絵本「ガマ王子vsザリガニ魔人」をお芝居にして、パコのために病院のみんなで演じようと提案します。

下妻物語」「嫌われ松子の一生」の中島哲也監督による独特の鮮烈な色彩感覚や、効果的に挿入されるキュートなCG、そして豪華俳優陣によるハイテンションで演劇的な芝居によって、舞台の持つライブ感を活かしつつ、作品世界をいっそうポップで華やかなものにしています。そうして、この絵本のような上質なファンタジー作品が成立したのです。

日ごろ「お前が私を知っているというだけで腹が立つ!」と放言する大貫でしたが、殴った翌日に自分のことを「知らな~い」と言う少女に出会い、生まれて初めて涙を流します。浅野医師に涙の止め方を教わって、大貫はようやく優しい心を獲得するのです。大貫を演じるのは役所広司さん。前半はひたすら憎たらしく、後半は一生懸命ぶりがひしひし伝わってきます。さすがです。パコ役のアヤカ・ウィルソンちゃんは超かわいい。演技が素朴なぶんだけパコの純真無垢な感じと悲劇性がいっそうよく出ていました。

主役以外の登場人物もみなキャラクターが濃厚です。トボケた医師(上川隆也さん)にヤンキー看護師(土屋アンナさん)、入院患者は自殺未遂を繰り返す元有名子役(妻夫木聡さん)に、消防車に轢かれた消防士(劇団ひとりさん)、事故の示談金を吊り上げようとするオカマ(國村隼さん)に、銃傷は拳銃の暴発だと言い張るヤクザ(山内圭哉さん)。自作のナースコールボタンが押されると突如現れる訳のわからない人(阿部サダヲさん)もいます。大貫の後継たるべき甥(加瀬亮さん)は間が抜けていて、その妻の看護師(小池栄子さん)は強欲な噛み付き魔です。みんなダメダメで情けない連中です。でも、その裏にはみなそれぞれ何か抱えるものがあって、ほんとうは愛すべき人々なのでした。

「一日しか記憶が保てない」という主人公の設定は「ガチ☆ボーイ」と同じです。この点、「ガチ☆ボーイ」は、記憶障害の青年の側から、彼自身がその一日に自らが生きた記憶を覚えていたいという切ない願いを描いた物語でありました。これに対し、「パコ」は、記憶障害の無垢な少女に対して、何とかして彼女にいい思い出を残してあげたいと願う周りの人たちの側から見たお話といえるでしょう。

また、子ども向けかと思いきや大人も楽しめるファンタジーといえば、まさに「崖の上のポニョ」がそうでした。ただし「ポニョ」が子どもは素直に楽しみ、大人は深読みして楽しむ作品だとしたら、「パコ」は子どもも大人もみんなが素直に楽しんで感動できる作品です。むしろ、大人たちがいろいろなものを抱えながら没頭しているという点で、大人にこそ観て欲しいファンタジーといえるかもしれません。

一瞬しか登場しない彦摩呂やゆうたろう、「ガンダム」「999」「エヴァンゲリオン」といったアニメネタなど、随所に散りばめられた小ネタも楽しい。木村カエラさんが歌うエンディングテーマも素敵。笑って泣いたこの愛おしい作品をハッピーに締めくくります。

★★★★★

(2008/09/13@ワーナーマイカルシネマ御経塚)

4391136570ガマ王子対ザリガニ魔人―パコと魔法の絵本
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B001CDL90Oパコと魔法の絵本 オリジナル・サウンド・トラック
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