かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

仙台フィルハーモニー管弦楽団を迎えて~大震災からの復興支援コンサート(2011/4/18@石川県立音楽堂)

東日本を襲った未曾有の大震災。仙台を本拠地とする仙台フィルハーモニー管弦楽団も、ホールの損壊などにより活動の休止を余儀なくされました。被災地でようやく室内楽などの活動を開始したとのことです。4年前の能登半島地震の際、石川県民は全国から物心両面にわたる多大な支援をいただきました。そこでオーケストラ・アンサンブル金沢としても、今回の大災害に対して何らかのかたちで支援したいと考え、それはやはり音楽を通した支援ではないかと。というわけで、大編成での演奏機会が困難になった仙台フィルを当地金沢に迎え、復興支援のチャリティコンサートが盛大におこなわれることになりました。仙台フィルの皆さんは、仙台からバス3台に分乗して金沢へ。その交通費や宿泊費も含めて、コンサートの収益はすべて仙台フィルのみなさんに贈られます。その趣旨におおいに賛同し、石川県立音楽堂へ行ってきました。

プレコンサートは、上田智子さんのハープ、そして堺洋子さんのピアノと筒井裕朗さんのサキソフォン演奏。筒井さんは福島にお母様が在住しており、ご本人も震災当時現地にいて被災したそうです。そんな筒井さんの思いとともに「ラプソディ・イン・ブルー」から「見上げてごらん夜の星を」。この日は全席自由席で、2階の前から3列目あたりを確保し開演を待ちます。

まずは仙台フィルとOEKの弦楽奏者全員によるバッハ「G線上のアリア」の献奏。リーダーはOEKでの客演でおなじみ、ベルリンフィルの元コンサートマスター安永徹さんです。その後のトークでもおっしゃっていましたが、総勢60人もの大人数によるアリアの弦楽合奏は経験がないと。しかしその弦楽の厚みは、透明な純度と奇跡的に両立し、静謐で荘厳な鎮魂の思いを伝えていました。思わず何かこう、すでに涙が浮かんできてしまいましたよ…

弦楽奏者のみなさんがいったん退場した後、あらためてOEKと仙台フィルの面々がステージに揃いました。そこへマエストロ井上さんが勢い良く登場、舞台中央に着くや否や指揮棒が振り下ろされ、快活な音楽が始まりました。グリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲! その激しく猛烈なスピードに思わずぶわっと鳥肌が立ちました。復興に立ち向かう確固たる意志を示すかのような、強靭な音楽の力…! 

あっという間に1曲目が終わりました。と、会場内にピーーっという弱い電子音が。どうやら最前列のおじさんの補聴器の警告音のようでしたが、なんと井上マエストロが壇上から飛び降り、「おじさん、これだこれ」と言いながら自ら補聴器を操作して不調を解消、再度よっこいしょとステージによじ登り、何事もなかったように次の曲の準備に移りました。この一見泥臭いけどとてもスマートな対処法、井上さんらしいなあ。それにしても、井上さんも自身の公式サイト言及してたけど、こういう耳の不自由な人までもが今回の音楽会を「聴きに」駆けつけるというのはとても尊い事実だと思うのです。

ここからは仙台フィルによる演奏。指揮は仙台フィル正指揮者の山下一史さんです。曲はシューベルト「ロザムンデ」間奏曲の第1番と第3番。第1番の方はあまりなじみのない曲でしたが、第3番はアンコールピースとして聴く機会が多い曲。しっとり切なく終わるというイメージなのですが、今回の演奏はどことなく明るくおおらかで、締めというよりは、ひと休み的なニュアンス。曲順にふさわしかったと思います。

続いては、シベリウスフィンランディア」。帝政ロシアの圧政に苦しむフィンランドが祖国の解放を願う愛国の曲であり、まさに被災地の方々が、困難に直面した自分たちの故郷を想う気持ちに重ね合わせるような曲であります。果たして、その演奏は強く心情に訴えるものでした。暗く重苦しい低音ではじまる序奏は現在の暗鬱たる惨状を連想させ、やがて明るく響く力強い金管は、絶望の淵から復活へ向かって勇気を奮い立たせます。そしてフィンランディア賛歌の美しい旋律。希望の光が射し込んでくるようです。仙台フィルの演奏はとても巧く活き活きとしており、特に、歯切れのいいティンパニや、叫ぶが如き金管は魂がこもっていて実に感動的…! 山下マエストロの闊達な指揮でいっそう勢いがついたようでした。

後半は仙台フィルにOEKが加わり、ふたたび大編成となりました。井上マエストロの指揮でドヴォルザーク新世界より」。これがまたとってもよかった…! なかなかOEKの編成では聴くことのできない不滅の名曲。やや大げさめにつけられたテンポや強弱のメリハリが、いまの気分にはじつに心地よく、とりわけ第2楽章の心に染みること…。井上さんの導きにより、演奏者がそれぞれ精神を解き放ち、その感情を素直に叩きつけるような、しかし決して雑になるようなことはなく、集中力と緊張感を保った演奏。感情が溢れ、気迫のこもった、魂を揺すぶられる熱演だったと思います。
 
アンコールは大河ドラマ利家とまつ~加賀百万石物語~」のテーマ「颯流」。OEKの公演ではたびたび演奏される曲です。でも仙台フィルとの共演でなぜわざわざ金沢の曲を…? と当初は不思議に思いましたが、やがてピンと来ました。案の定、アンコールはもう1曲ありました。金沢を舞台とした大河ドラマがきたら、当然次は仙台…そう、「独眼竜政宗」です! 指揮者が山下さんに交替し、華々しくテーマ曲の演奏が始まりました。「独眼竜政宗」は大河ドラマとしても1、2を争う好きな作品だし、テーマ曲自体も勇壮重厚で大好きだったのですよ…! それを地元仙台フィルと我らがOEKの共演で聴けるなんて…!大編成の大迫力で聴く金沢・仙台の大河ドラマテーマ曲競演におおいに満足しました。

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終演後は万雷の拍手! カーテンコールが繰り返され、金沢では非常に珍しいスタンディングオベーションが起こりました。団員さんたちが舞台袖に退いた後も、拍手は鳴り止みません。やがて仙台フィルのみなさんが手を振りながら壇上に戻って来られ、ふたたび温かい拍手が送られました。山下マエストロの力強いご挨拶。「今日は金沢のみなさんに元気をもらいました! この元気をもったまま…早く仙台に帰りたいです!(笑)」「そして、また金沢に戻ってきたいと思います!」

フィンランディアとか新世界とか、学生オケの定期演奏会や地方メディア主催演奏会が好みそうな派手なプログラムでありましたが、こういうふうに心の交流を全面に出したいときには、まったくふさわしい選曲だったと思います。元気がみなぎり、勇気とパワーが沸いてくる気がします。応援する側が泣いてはいけないのだけど、じつに感動的で有意義な、素敵な素敵な音楽会を経験できました。


仙台フィルハーモニー管弦楽団を迎えて
大震災からの復興支援コンサート
Sendai Philharmonic Orchestra × Orchestra Ensemble Kanazawa

日時:2011年4月18日(日)19:00開演 Monday, 18 April 2011 at 19:00
会場:石川県立音楽堂コンサートホール Ishikawa Ongakudo Concert Hall
指揮:山下一史 Kazufumi Yamashita, Conductor
   井上道義 Michiyoshi Inoue, Conductor
リーダー&ヴァイオリン:安永徹 Toru Yasunaga. Leader and Violin
管弦楽仙台フィルハーモニー管弦楽団 Sendai Philharmonic Orchestra [SPO]
    オーケストラ・アンサンブル金沢 Orchestra Ensemble Kanazawa [OEK]
コンサート・マスター:伝田正秀(SPO) Masahide Denda (SPO), Concertmaster
           サイモン・ブレンディス(OEK) Simon Blendis (OEK), Concertmaster


《献奏(弦楽合奏)SPO&OEK》
J.S.バッハ Johann Sebastian Bach (1685-1750)
 管弦楽組曲 第3番 BWV1068 ニ長調 「エア」
 Orchestral Suites No.3 in D major, BWV1068 "Air"

~リーダー&ヴァイオリン:安永徹 Toru Yasunaga, Leader and Violin》


《OEK&SPO》
■M.グリンカ Mikhail Glinka (1804-1857)
 歌劇「ルスランとリュドミラ」より 序曲
 "Ruslan and Lyudmila" Overture

~指揮:井上道義 Michiyoshi Inoue, Conductor
~コンサート・マスター:サイモン・ブレンディス(OEK) Simon Blendis (OEK), Concertmaster


《SPO》
■F.シューベルト  Franz Schubert (1797-1828)
 劇音楽「ロザムンデ」より 間奏曲 第1番・第3番
 "Rosamunde" Intermezzo No.1, 3

■J.シベリウス  Jean Sibelius (1865-1957)
 交響詩フィンランディア」 作品26
 Ton-poem "Finlandia" Op.26

~指揮:山下一史 Kazufumi Yamashita, Conductor
~コンサート・マスター:伝田正秀(SPO) Masahide Denda (SPO), Concertmaster


----- 休憩 Intermission -----


《SPO&OEK》
■A.ドヴォルザーク Antonin Dvořak (1841-1904)
 交響曲 第9番 ホ短調新世界より」 作品95
 Symphony No.9 in E minor "From the Ner World" op.95

~指揮:井上道義 Michiyoshi Inoue, Conductor
~コンサート・マスター:伝田正秀(SPO) Masahide Denda (SPO), Concertmaster


(アンコール Encore)
《OEK&SPO》
渡辺俊幸 Toshiyuki Watanabe (1955-)
 NHK大河ドラマ利家とまつ~加賀百万石物語~」 より メインテーマ「颯流」
 NHK Taiga-Drama"Toshiie to Matsu - Kaga Hyakumangoku Monogatari" - Main Thema "SouRyu"
~指揮:井上道義 Michiyoshi Inoue, Conductor
~コンサート・マスター:サイモン・ブレンディス(OEK) Simon Blendis (OEK), Concertmaster

《SPO&OEK》
池辺晋一郎 Shinichiro Ikebe (1943-)
 NHK大河ドラマ独眼竜政宗」 より メインテーマ
 NHK Taiga-Drama"Dokuganryu Masamune" - Main Thema
~指揮:山下一史 Kazufumi Yamashita, Conductor
~コンサート・マスター:伝田正秀(SPO) Masahide Denda (SPO), Concertmaster