かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

悪人

【ネタバレあり】
ケータイの出会い系サイトで知り合った解体作業員の祐一と紳士服量販店員の光代。「本気の出会い」を欲していた二人は、出会ったその日に互いの身体を求め貪り合い、たちまち恋に落ちます。ところが祐一が出会い系サイトで知り合った別の女性を殺害していたと光代に告白。いったんは自首を決意するものの、もはや互いに離れられない二人は、逃避行の道を選びます…。

無論、殺人を犯した祐一の罪は償われるべきですが、果たして本当の「悪人」は誰なのか? 祐一を散々振り回した挙句、助けてもらったにもかかわらず身勝手極まりない態度に終始した被害者は? 被害者を山中に置き去りにし事件の遠因をつくりながらも、彼女の行状を面白おかしく「ネタとして」扱いあざ笑う男は?

そういった作品の主題に考えをめぐらせながらも、ぼくとしては、祐一と光代の心情にこそ思いを馳せざるをえませんでした。寂れゆく地方で変わり映えしない日常を過ごす閉塞感。友達も恋人もなく満たされない毎日を送る孤独感。そんな「何者でもない自分」に対する漠たる焦燥感。ぼく自身、いまでこそ幸いにして精神的に満たされた心穏やかな毎日を過ごせていますが、どれもこれもつい最近まで自分自身が感じていた思いだったりします。そういったくすぶった日々に、互いの心情を慮れる相手が現れたとしたら…これこそが自分の人生のすべてだと考えるのは必定でしょうね。いけないことだと分かっていても、せっかく手にしたささやかな幸せを離したくない…。光代はそんな想いから、祐一の逃亡を促し、その手助けをするのです。ああ、手に取るように光代の気持ちが分かるなあ。だからすっかり光代に感情移入して、心をざわつかせながら観ていました。

ラストカットは美しい夕景。破滅を迎えたというのに、なぜここにきてこんな幸福な映像をもってくるんですね…。こらえていた涙があふれるじゃないですか…。

★★★★

(2010/10/11@イオンシネマ金沢フォーラス)