かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

【OEK定期286PH】イワキ・メモリアルコンサート カンタさんのサン=サーンス&加古隆氏新曲初演(2010/09/04)

いよいよこの日、OEKの2010-2011年度定期公演新シーズンが開幕しました。近年の恒例として、シーズン最初の定期公演は「イワキ・メモリアルコンサート」。故岩城宏之永久名誉音楽監督の遺徳を偲びつつ、岩城宏之音楽賞受賞者をソリストに迎えての協奏曲。さらには岩城さんが執念を燃やし続けた現代曲新作の世界初演がおこなわれます。今年の作曲家は加古隆さんです。本公演の指揮はもちろん井上道義音楽監督。しかも今回の岩城宏之音楽賞はわれらがOEK首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタさん!これは心踊らずにいられません。

その前に、まず1曲目はハイドン「太鼓連打」。最近井上さんとOEKが力を入れているハイドンから新シーズンの始まりです。第2ヴァイオリンには、2年間のウィーン・ドレスデン留学から帰国したばかりの竹中のりこさんの顔も見えますね。お帰りなさいませ♪ 第1楽章冒頭はティンパニの連打から…なんですが、叩き方が抑え気味で少々物足りないかも? まあここはいろいろ解釈があって、井上さんなら派手にくるのかなとも思いましたが、古楽的アプローチを随時取り入れている最近の井上さんらしいともいえます。とはいえ、チェロ・コントラバスによる重厚なAdagioに続いて、やがて主部Allegro con spiritoに入ると、それはそれは誠に涼やかなハイドン…! ほとんどヴィヴラートをかけず、しかし弾むように奏でる弦のトーンは透明な水が次々とこぼれるよう。井上さんの楽しげに踊る指揮も健在。この曲は中間楽章も面白いです。第2楽章は楽しいメロディによる変奏。コンマス、サイモン・ブレンディスさんのソロが美しい。第3楽章メヌエット、トリオ。ともにホルンやフルートの合いの手がかわいい。第4楽章は再びAllegro Con Spiritoで軽快に。井上さんはこの楽章だけは指揮棒を手にします。タタタターララという印象的なリズムが繰り返され、これぞハイドンという軽やかな疾走感で駆け抜けました。

続いてはカンタさんの登場。サン=サーンスの名曲、チェロ協奏曲第1番です。カンタさんがOEKをバックに華やかで技巧的な第1主題を奏で始めました。その憂いを伴った、しかし確固たる音が聴こえるとともに、カンタさんの気迫のこもった表情をみたとき、なぜだか思わず涙が溢れてきました。まだファン歴も浅いためカンタさんのことをそんなに知っているわけではないけれど、他国で暮らす苦労も多々あったことでしょう。そんな中、当地の愛好家や楽団員に愛され、ついにその功績が認められました。その喜びを噛み締めながらも、しかしいまは目の前の音楽に真剣に対峙している姿。それがこのサン=サーンスの劇的な主題に重なって、実に実に感動的だったのです。カンタさんの独奏は決して爆音系ではありませんが、堅実な技巧は冴えに冴え渡り、甘く、渋く、繊細に歌い分けます。優美な第2部に続き、第3部ではふたたび劇的に。カンタさんの渾身の演奏を堪能しました。演奏後は万雷の拍手。カンタさんが金沢の音楽ファンに愛されていることを実感します。井上さんが壇上にある岩城さんの遺影脇に飾ってある花々からひまわりを一輪抜き出し、カンタさんに捧げました。カンタさんもカーテンコールでそのひまわりをチェロに挿して現れるなど、和やかなお祝いムードが続きました。

後半は加古隆さん。今年のOEK「コンポーザー・オブ・ジ・イヤー」としての新曲披露です。OEKでは岩城さんの発案で「コンポーザー・イン・レジデンス」という「座付き作曲家」制度を設け、毎年一人の作曲家に新曲を委嘱、世界初演をおこなってきました。井上さんはその制度自体の意義は認めつつも、金沢に住んでもいないのに「イン・レジデンス」とはおかしいと音楽監督就任当時からおっしゃっていましたが、今年ついに改称されたようです。

さて、まずはトレードマークの黒い帽子をかぶった加古隆さん自身がピアノを弾き、OEKの協奏で過去の加古作品(ダジャレではない)を3曲。テレビ番組のテーマ曲2つとグリーンスリーヴスの変奏曲なので、さらりと聴きやすい佳曲です。プログラムの解説によると、加古隆さんは、メシアンに師事し現代音楽作曲家としてスタートしつつも、フランスでフリージャズのピアニストとしてデビューするという特異な経歴の持ち主なのですが、その後、メジャーな分野の作曲に進出、プレトーク池辺晋一郎氏と語っていたところでは「もういわゆる『現代音楽』はやらない」とのこと。そんな加古さんの新曲が最後に披露されました。加古さんが金沢と聞いて連想した「朱」のイメージ。これは前3曲のようなポピュラーなものではなく、さりとて本人が否定したようにいわゆる「現代音楽」でもなく、管弦楽曲として聴きごたえのある楽曲でした。幻想的なコントラバスのユニゾンからはじまるなど、各楽器の見せ場がきちんとあって、とてもおもしろかったです。この日の公演はテレビ収録をしていましたので(どこの放送局だろう?)、また聴いてみたいと思います。カーテンコールではふたたび加古さんも登壇。井上さんも加古さんとおそろいの帽子をかぶって、お茶目に終演(笑)。

オーケストラ・アンサンブル金沢 Orchestra Ensemble Kanazawa
第286回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
The 286th Subscription Concert / Philharmonie-serie

日時:2010年9月4日(土)15:00開演 Saturday, 4 September 2010 at 15:00
会場:石川県立音楽堂コンサートホール Ishikawa Ongakudo Concert Hall
指揮:井上道義 Michiyoshi Inoue, Conductor
コンサートマスター:サイモン・ブレンディス Simon Blendis, Concertmaster

ハイドン F.J.Haydn (1732-1809)
 交響曲 第103番 変ホ長調 Hob.I-103 「太鼓連打」
 Symphony No.103 in E flat major, Hob.I-103 "Drum Roll"

サン=サーンス C.Saint-Saens (1835-1921)
 チェロ協奏曲 第1番 イ短調 作品33
 Violincello Concerto No.1 in A minor, op.33
 ~チェロ:ルドヴィート・カンタ Ludovit Kanta, Violincello

-- 休憩 Intermission ---

加古隆 T Kako
 黄昏のワルツ
 Waltz in the Evening Glow
 ポエジー ~グリーンスリーヴス
 Poegie - Greensleeves
 フェニックス
 Phoenix
 ~ピアノ:加古隆 Takashi Kako, Piano

 ヴァーミリオン・スケープ ~朱の風景
 (オーケストラ・アンサンブル金沢2010年度委嘱作品・世界初演
 Vermilion Scape (Commission by OEK in 2010, World Premiere)