かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

IMA日本海交流コンサート with 井上道義&OEK(2010/08/26)

国内外の著名講師陣による若手音楽家の指導の場、いしかわミュージック・アカデミー(IMA)。今年も最終日はコンサートで閉幕です。過去のIMA卒業生で、現在各種コンテストで次々と優秀な成績を収めている若手演奏家を招いて、華やかなステージが繰り広げられました。今回招かれた若手ソリストは、全員がヴァイオリニスト。若々しい才能によって、ヴァイオリンと管弦楽が紡ぎ出す名曲が次々と聴けるとあってとても楽しみにしていました。座席は2階最前列。絶好。…でも、ほかの客の入りはいまいち?うーん、残念。

まずは今年のIMA受講生選抜メンバーとOEKによる合同演奏から。バルトーク「弦楽のためのディベルティメント」より第1楽章。両翼に第1・第2ヴァイオリン、中央にヴィオラが構え、その後ろにチェロ、そのたま後ろにコントラバスがそれぞれ横一列に並びます。OEKもたまに弦5部のみの合奏曲を演奏しますが、そのときよりも当然編成は大きく、さすがに弦の厚みが感じられました。古典の様式美を基調としつつ、バルトークらしい民俗的風味も漂う楽曲。IMA受講生選抜メンバーも無事破綻なく楽しむことができたようです。演奏後、井上さんが受講生たちの国籍を問うたところ、大多数が韓国とのこと。ほかにも中国、台湾などの受講生も多く、まさしく「日本海交流」コンサートなのだと納得しました。

次は正戸里佳さんによるラヴェルのツィガーヌ。冒頭からがっつり太くてボリューム満点のソロが響き渡ります。演歌的な押しと粘りのある響きとでも申しましょうか。音量、音質、技巧すべて申し分ありません。ただ、オケが入ってくるあたりから、少々気合が入りすぎたのか、先走り&空回り気味? オケとのタイミングが微妙にずれる場面が少なからずあったように思います。後半は、がんばれ!がんばれ!と応援しながら聴いていました。まあ、OEKの方も最初はちょっとバタついていた感がありましたしね。ただ、ツィガーヌの管弦楽版の実演って初めて聴きましたが、あらためて聴くとオーケストレーションがおもしろいですね。

前半の最後は、クララ=ジュミ・カンさんによるサン=サーンス「序奏とロンド・カプリチオーソ」とサラサーテツィゴイネルワイゼン」。おお!ツィガーヌに続いてまたしても技巧披露曲、しかもなんという黄金の組み合わせ! 今年のLFJ金沢では、エリアイベントの無料コンサートで彼女の演奏を聴きましたが、人ごみの遠くからだったためあまり記憶にはありません。というわけで、今回の音楽会が楽しみだったわけですが、クララさんは赤いロングドレスで登場。21歳だそうですけど、プロフィール写真がいかにも子どもだったので、実際の姿を見て大人っぽさにビックリ。で、肝心の演奏の方は…いやはや!まったく素晴らしい! 奏でる響きには一切曇りがなく、一本ピシッと筋の通ったような端正さ。とりわけ弱音、高音に最高級の透明感があり、実に綺麗です。特に印象に残ったのは「序奏とロンド・カプリチオーソ」。個人的に好きな曲だということもありますが、この頃からオケもぐいぐいノッてきたのです。穏やかな序奏が終わり、ロンド・カプリチオーソに移る瞬間のカッコよさ!! マエストロ井上も、クララさんと正面から対峙。その気迫のこもった表情と身体全体の動きで、ますます彼女の力量が引き出されたような気がします。「ツィゴイネルワイゼン」でも、持ち味の美音に加え、数々の技巧が冴えていました。

休憩を挟んで後半は、マウラー「4本のヴァイオリンのための協奏交響曲」からスタート。鈴木愛里さん、青木尚佳さん、インモ・ヤンさん、松本紘佳さんの4人の若きヴァイオリン奏者が登場しました。鈴木さんと青木さんはおそらく20才前後、インモ・ヤンさんは唯一の男性で15才、松本さんはそれより下かも。曲は全体的には古典派的な形式。加えてメンデルスゾーンのような天真爛漫な明るさが感じられ、華やかな祝祭ムードに包まれます。そして、4つのヴァイオリンの協奏部分がまたおもしろい。主旋律を入れ替わり立ち替わり務めあい、あるいは4人がフーガ的に追いかけっこしたり、4人の中での組み合わせが目まぐるしく変わります。4人の間では楽しい室内楽で、オケとの関係は明るい協奏曲。まさに協奏交響曲の醍醐味ですね。4人の若きソリストたちも徐々に調子を出していき、最後はとってもハッピーな気分で結びました。意外によかったですよ、これ。ぼくは好きだなあ。で、作曲者のマウラーって誰?ってことなんですが(笑)、1789年にポツダムで生まれ、1878年ロシアのサンクトペテルブルクで亡くなったとのこと。生年はベートーヴェン(1770年)とシューベルト(1797年)の間くらいですから、古典派の終わり~初期ロマン派あたり。曲想からして、まあ予想通りでしたね。

そして最後は、シン・ヒョンスさんのモーツァルト。ぼくは今回、この人個人のことは事前にあまり気に留めていなかったのですけど、舞台に登場した姿――ブルーのドレスをまとったショートヘアのスリム美人――を見て、見覚えがある!と。そして、その思いは彼女の奏でる音を聴いて確信に変わりました。昨年のIMAフェスティバルコンサートで、メンデルスゾーンのコンチェルトを素晴らしい演奏で披露したヴァイオリニストの彼女だったのです!いやあ、名前では記憶していなかったのですが、たしかに彼女――シン・ヒョンスさんでした。でも、音を聴いて思い出したって凄くないですか? その美しく繊細で、情感がきちんと伝わり、しかし確固たる芯のある音色。それもモーツァルトで。そう、最後の曲はモーツァルトなのですよ。バルトークラヴェルサン=サーンスサラサーテと個性的・技巧的な曲が続き、ナゾのマウラー(笑)をはさんだ後に、穏当なモーツァルト。しかし、そのようにどちらかといえば技巧や表現力の幅を見せ付けにくい曲でなお、しかも特段癖があるわけでもないのに、その存在感がわかるというのがすごいと思うのです。

そうそう、ぼくはといえば、それこそ近頃はフランスもの、近代もの、ピアノ曲などに目覚めてしまい、そういったぼくにとって新鮮な曲ばかり聴いている日々でした。そのため、いままでは少なくとも週に数曲は聴いていたモーツァルトも、ずいぶん久しぶりな気がします。それでも、この日、井上さんの指揮でOEKのモーツァルトを聴いていると、ほとんど無防備に安らいでいる自分がいます。決して刺激的ではないけど、穏やかな幸福感に包まれる感じ。このいかにもOEK定期会員らしい古典派への親和性の高さに、自分でも苦笑いしてしまいました。とはいえ、最近は新しい音楽の味を知り、それに心を震わせているのも事実。そしていま、従来好んでいた音楽も依然として安らげることがわかりました。こうして、楽しめる音楽の幅がどんどん広がっていく。だから、最近ホントにシアワセな気持ちです。

シン・ヒョンスさんにはアンコールの舞台が用意されていました。クライスラーらしからぬ技巧的な曲。穏当なモーツァルトだけじゃなく、こういうのもできるのよ!と見せつけるような艶のあるレチタチーヴォと颯爽としたスケルツォでした。
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コンサート後、軽く食事をした後、ガレタッソさんへ。このパターン、やってみたかったのですよ。まあ、ぼくはほとんど初来店みたいなものなので(ホントは3度目だけど)、おとなしくしていたのですが、常連のお客さんの一人が、ぼくと中学校の同級生(同じ部活)だということが発覚。うへええ、こんなことあるんですねえ。最近、不思議な縁がつながっていくことが多く、なんだか楽しいです。
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IMA日本海交流コンサート
いしかわミュージックアカデミー with 井上道義オーケストラ・アンサンブル金沢

日時:2010年8月26日(木)19:00開演 Thursday, 26 August 2010 at 19:00
会場:石川県立音楽堂コンサートホール Ishikawa Ongakudo Concert Hall
指揮:井上道義 Michiyoshi Inoue, Conductor

バルトーク B.Bartok
 弦楽のためのディヴェルティメントより第1楽章
 Divertimento for strings, 1st mov.
~合同演奏:OEK&アカデミー受講生

ラヴェル M.Ravel
 ツィガーヌ Tzigane
~ヴァイオリン:正戸里佳 Rika Masato, Violin

サン=サーンス C.C.Saint-Saens
 序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28
 Introduction et Rondo capricioso, op.28
サラサーテ P.d. Sarasate
 ツィゴイネルワイゼン Zigeunerweisen
~ヴァイオリン:クララ=ジュミ・カン Clara-Jumi Kang

---休憩---

■マウラー L.Maurer
 4本のヴァイオリンのための協奏交響曲 イ短調 作品55
 Concertante for 4 violins in A minor, op.55
~ヴァイオリン:鈴木愛里、青木尚佳、インモ・ヤン、松本紘佳
 Violin: Airi Suzuki, Naoka Aoki, In-Mo Yang, Hiroka Matsumoto

モーツァルト W.A.Mozart
 ヴァイオリン協奏曲 第4番 ニ長調 K.218
 Violin Concerto No.4 in D major, K.218
~ヴァイオリン:シン・ヒョンス Hyun-Su Shin, Violin

(アンコール Encore)
クライスラー F.Kreisler
 レチタティーヴォスケルツォ カプリース 作品6
 Recitative and Scherzo-Caprice for Solo Violin, op. 6
~ヴァイオリン:シン・ヒョンス Hyun-Su Shin, Violin