かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

沈まぬ太陽

山崎豊子さんの長編小説を映画化。フィクションといいながら、冒頭に登場するのはあの御巣鷹山の衝撃的な航空機事故。だとすればモデルになった企業は日航以外にありえません。物語はこの事故を中心にその前後のエピソードがを描かれていきます。そのため、あたかもそのすべてがドキュメンタリのような印象を受けますが、必ずしもそうではないようです。

墜落事故の遺族担当となった恩地元が主人公。彼が歩んできた苦闘の日々を軸にして物語は進んでいきます。労組委員長として経営陣に徹底的に抵抗した末の左遷人事。不遇な海外僻地勤務とそれによる家族崩壊。一方で同輩の行天は経営幹部に迎合し出生街道を邁進。ようやく帰国した恩地が命ぜられたのは墜落事故の遺族対応。身を斬られるような罪悪感。企業改革チームの一員に抜擢され、明らかになる政官界との癒着…。次々と襲い来る苦難を不屈の精神で立ち向かう恩地の生き様を、渡辺謙さんが文字通り熱演します。休憩を挟む3時間半という大作ですが、まったく長さは感じさせません。

しかし、真実はこのように恩地は「善」で会社や行天が「悪」と単純に二分できるものではないでしょう。日本航空の企業体質に問題が多かったのは確かなようですが、墜落事故は複合的な要因によるという説もあり、真相は必ずしも明らかでありません。すべてそうした企業体質による必然の結果だと決め付けるのは少々乱暴という気がします。当作は企業腐敗を「虚実混交」に描き、実在する事件の善悪を単純化したがゆえの「問題作」といえます。

このように視点が片面的一方的にすぎるため、物語としては底が浅い面があるかもしれません。ですが、だからといって御巣鷹山の悲劇を風化させるわけにはいきません。その意味で、この問題作を映画化したこと自体はおおいに評価されるべきでしょう。たしかにあの事故の忌まわしき記憶が残る限り、当作を観るには心が痛むかもしれません。しかし遺族の痛みや怒りといった感情は、渡辺謙さんが正面からすべて受け止めてくれています。会社の暗部における責任は悪役の行天を演じる三浦友和さんが一身に背負ってくれています。この二人の渾身の演技によって、あの事件も直視することができるというものでしょう。

★★★★

(2009/10/30@ユナイテッド・シネマ金沢)