かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

OEK室内楽シリーズ「もっとカンタービレ♪」第16回 ミッキー presents カンタービレ・ファンタジーナイト

OEK楽団員が自らプロデュースする室内楽シリーズ「もっとカンタービレ♪」。今回は井上道義OEK音楽監督をゲストに招き、シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」が演奏されます。個人的にはふだんあまり聴かない作曲家の作品ですが、出演者欄にパントマイムというクレジットがあり、井上さんらしい趣向を凝らした興味深いパフォーマンスが繰り広げられる予感。期待して音楽堂へ向かい(4回5000円の回数券を購入し)、ど真ん中の好座席を確保して開演を待ちます。するとあとから続々とお客さんが詰めかけ、交流ホールがたちまち満席になりました。客席にはOEKの楽団員さんたちの顔も数多く見られます。

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前半はシェーンベルクと同時代の作曲家による弦楽室内楽を2曲。1曲目はウェーベルン弦楽四重奏のための「スロームーヴメント」、2曲目はリヒャルト・シュトラウスの歌劇「カプリッチョ」より弦楽六重奏曲。ウェーベルンシェーンベルクの弟子で前衛的な「新ウィーン楽派」の作曲家ですが、ヴィオラの古宮山さんが冒頭で紹介されたとおり、この「スロームーヴメント」はメロディアスで美しい曲でした。R.シュトラウス弦楽六重奏曲も、弦のダイナミズムが楽しい綺麗な曲。ヴォーン・ヒューズさんが選曲理由として「弦楽器のいい音」を楽しんでほしいと(日本語で)おっしゃったとおりでした。

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さて、休憩を挟んでいよいよ「月に憑かれたピエロ」です。井上さんによるプレ解説によると、この曲はフランスの詩人アルベール・ジローの「月に憑かれたピエロ」という詩をドイツ語訳し、7編×3部=計21編を選んで曲をつけたものだとのこと。今回はそのうちさらに16編を抜粋して演奏します。ピエロが目玉でワインを飲むように月光を浴び、蒼白い顔をした女が夜中に川で洗濯をする。黒く巨大な蝶が空を埋め尽くし、ミサは心臓をホスティアにして赤く染まる。半月のような刀で罪人は打ち首にされ、ピエロはその禿頭をパイプにして紫煙をくゆらせる…。不気味でグロテスクな月夜の世界。「ミッキー・ホラー・ショウ」のはじまりです。

正面ディスプレイに各編の標題やイラスト映像が映し出される中、幻想的なムードで演奏がはじまりました。すると最前列に座っていた女性が突然立ち上がり壇上へ。ピエロです。この人こそがパントマイムのヨネヤマママコさんなのでした。日本におけるパントマイムの草分けということですので、相当のご高齢のはずですが、身のこなしの軽やかさは年齢を感じさせません。余計な力が入っていない浮遊的な愛嬌と、どことなく哀しみを背負った不気味さが同居する不思議なピエロ。

井上さんも熱演。面をかぶってステージ上をさまよったり、ママコさんと一緒にパントマイムをしたり。ソプラノの荻野さんはおどろおどろしく詩を朗読するように唄います。「シュプレッヒシュティンメ」という語り唄う技法。自らが演じた「蒼白い洗濯女」は背筋ゾクゾク。少数精鋭の室内楽伴奏は調性がなく、終始不協和音的。曲想はつねに不安定で緊張感があり、不気味な雰囲気をよりいっそう高めていきます。シュールな詩の世界観とあいまって、いつしか思念は夢と現実の狭間を漂うのでした。

シェーンベルク : 月に憑かれたピエロシェーンベルク : 月に憑かれたピエロ
BBC交響楽団

曲名リスト
1. 期待op.17(音楽つきのモノドラマ)
2. 月に憑かれたピエロop.21
3. 山鳩の歌(室内管弦楽版)

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余談。この「もっとカンタービレ♪」はOEK楽団員の自主企画ですので、司会進行も楽団員が務めます。今回は井上さんがいたので、楽団員により親近感を持てるトークが展開されました。

開演冒頭、井上さんが「楽団員さんの音楽会だから本来ボクがしゃべっちゃいけないんだけど…」と前置きしつつ、古宮山さんを紹介するくだり。
井上 「みなさんよくご存知の…アンサンブル金沢で一番の美人です」
古宮山「違いますっ」(←即答)
井上 「一番は江原さんか?」
古宮山「そうです」(←即答)
古宮山さんが美人なのは間違いないのですが、いつもその美しい容貌のことばかり言われるのかもしれません。さすがにそれは不本意なのでしょうね。

あと、R.シュトラウスの前に、井上さんがヴォーン・ヒューズさんの奥様の話をするくだり。
井上  「奥さまはどこの人?」
ヒューズ「日本人です」
井上  「日本のどこ? 大阪? 北海道?…」
ヒューズ「金沢…の『田上』」
「田上」という具体的な地名が発せられたのがウケました。

そして終演後は「月に憑かれたピエロ」でカブリモノ姿を披露したチェロの大澤さんが、次回の「もっとカンタービレ♪」の予告を。次回は12月に「ヨーロッパツアー2009帰国報告会」と題して、公演先のルーマニアハンガリー、ウィーンなど東欧の作曲家の楽曲が披露されるようです。もっとも、スペイン公演を望んでいた大澤さんは残念なようす。「パエリアはまた食べられなくなりました」と。

オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ「もっとカンタービレ♪」
第16回 ミッキー presents カンタービレ・ファンタジーナイト
Orchestra Ensemble Kanazawa Chamber Music Series "Motto Cantabile"
Mickey presents 'Cantabile Fantasy Night'

日時:2009年9月8日(火)19:00開演 Tuesday, 8 September 2009 at 19:00
会場:石川県立音楽堂交流ホール Ishikawa Ongakudo Interchange Hall

■アントン・ウェーベルン A. Webern (1883-1945)
 弦楽四重奏のための緩徐楽章「スロームーヴメント」
 Slow Movement for string quartet

 ~第1ヴァイオリン:ヴォーン・ヒューズ 1st Violin: Vaughan Hughes
  第2ヴァイオリン:ミンジョン・ス 2nd Violin: Min Jong Su
  ヴィオラ:古宮山由里 Viola: Yuri Komiyama
  チェロ:セバスティアン・ハートゥング Cello: Sebastian Hartung

リヒャルト・シュトラウス R. Strauss (1864-1949)
 歌劇「カプリッチョ」より弦楽六重奏
 "Capriccio" - String Sextet

 ~第1ヴァイオリン:ヴォーン・ヒューズ 1st Violin: Vaughan Hughes
  第2ヴァイオリン:ミンジョン・ス 2nd Violin: Min Jong Su
  第1ヴィオラ:ジェームス・ハーシュタット 1st Viola: James Hallstatt
  第2ヴィオラ:古宮山由里 2nd Viola: Yuri Komiyama
  第1チェロ:早川寛 1st Cello: Hiroshi Hayakawa
  第2チェロ:セバスティアン・ハートゥング 2nd Cello: Sebastian Hartung


--- 休憩 Intermission ---


アルノルト・シェーンベルク A. Schoenberg (1874-1951)
 月に憑かれたピエロ
 Pierrot lunaire

 ~指揮:井上道義 Conductor: Michiyoshi Inoue
  パントマイム:ヨネヤマモモコ Pantomime: Mamako Yoneyama
  シュプレヒシュティンメ:荻野砂和子(ソプラノ) Sprechstimme: Sawako Ogino (Soprano)
  ヴァイオリン/ヴィオラ:坂本久仁雄 Violin/Viola: Kunio Sakamoto
  チェロ:大澤明 Cello: Akira Osawa
  フルート/ピッコロ:岡本えり子 Flute/piccolo: Eriko Okamoto
  クラリネット/バスクラリネット:山根孝司 Clarinet/Bass Clarinet: Takashi Yamane
  ピアノ:松井晃子 Piano: Akiko Matsui