かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

歌劇「トゥーランドット」(2009/07/18@金沢歌劇座)

カルメン」「ラ・ボエーム」に続くOEK企画による金沢歌劇座オペラシリーズ第3弾。今回は東京芸術劇場読売日本交響楽団との合同制作ということで、前2回よりスケールは大きくなっています。トゥーランドット姫と王子カラフは海外からソリストを招聘、指揮はついに井上道義マエストロが登場します。そのため破格の安さだった前2回とは異なりお値段も若干お高めなのですが、1階上手ブロック最前列のS席を見事ゲット。今回は母親を連れて鑑賞してきました。

演出は狂言師茂山千之丞さん。全体的に和のテイストが感じられる「セミ・ステージ方式」という簡素な舞台スタイル。派手な動きが少なく、大道具はもちろん小道具も極力使わない能狂言の演出手法が採り入れられています。高低差のある舞台に字幕表示板を兼ねた柱だけがあるだけで、「トゥーランドット」っぽい中国の豪華絢爛な美術セットはありません。合唱隊はステージ上で群衆として演技をするという形ではなく、舞台上に設けられたひな壇に整列します。

逆にオーケストラピットは床から数10センチ低い程度で、金管隊はステージ前列に居並びます。会場の観客からオーケストラ全体がよく見えたことでしょう。ぼくの席からだとまさに目の前にドーンとオケが並んでいます。正面は客演のコントラファゴット奏者の方が座り、その後ろ(右側)にはパーカッション隊がずらりと並んでいます。そんななか、井上マエストロは皇帝が着るような派手な上着を羽織って登場。挨拶が済むとさっそうとその上着を脱ぎ捨て、上演が始まりました。

物語の舞台は中国。トゥーランドット姫は求婚してくる男たちに3つの謎を出題し、答えられないとその首をはねてしまう冷酷な美女。放浪していた辺境国の王子カラフは、この地で父ティムールと女奴隷リューに再会し、姫の非道さを非難していましたが、姫を一目見て恋に落ち、3つの謎に挑戦、見事解答し、姫に求婚します。これを拒むトゥーランドット姫に対し、カラフは翌朝までに自分の名を知ることができたら破談にし、自ら死のうと提案します。この者の名を突き止めるまで「誰も寝てはならぬ」と市民に強要する姫。自分の勝利を確信するカラフ。そこにティムールとリューが捕われカラフは一転苦境に陥りますが、拷問にかけられたリューは死してカラフの名を秘します。リューのその献身的な姿に改心した姫は「愛」を知るのでした…。

ふだんより大編成のOEKの演奏は迫力満点。テンポもメリハリが効いてドラマティックさが増しています。特に第1幕終了間際にカラフが3つの謎に挑戦するといって銅鑼を鳴らす場面。3回銅鑼を鳴らすのをたっぷりとタメをきかせていたのが面白かったのですが、そのタイミングもばっちりでした。ぼくの座席からは、井上さんから、カラフ役のアレクサンドル・バディアさんと、実際に鳴らす銅鑼を鳴らすパーカッション担当へに向けたアイコンタクトのようすが見られて興味深かったです。

トゥーランドット姫役のマリアナ・ツヴェトコヴァさんは、2幕から登場しますが、オケの音量に負けないすばらしい高音を聴かせてくれました。メイクがデーモン小暮閣下的だったのは少しかわいそうかも。バディアさんは、なんと言っても「誰も寝てはならぬ」のアリアですね。全体的にすっきり甘いスマートな声でしたが、最大の聴かせどころではスカッとパワフルな歌唱が響きました。

もっとも、この物語の筋書き自体は、トゥーランドット姫も王子カラフもわがままな気分屋で、やってることは無茶苦茶、行動に飛躍があってまるで感情移入できないのです。でも、その不条理な展開ゆえに覚悟の死を遂げるリューの献身的な態度はおおいに同情を誘い、その悲劇性によってリューのアリアには拍手も多く集まりますね。今回のリュー役の小林沙羅さんも、その繊細なソプラノは健気で儚げな感じが素晴らしかったです。

そして最終盤、舞台上の合唱隊による「誰も寝てはならぬ」の大合唱。不条理な展開についてのいかなるツッコミをも許さぬというくらいの(?)クライマックス感が覆います。死んだはずのリューも舞台上にあがればもう大団円。井上さんがさっそうと振り返り全曲終了、大フィナーレとなりました。

今回のオペラも大満足。予算的に豪華絢爛なステージは無理でも、演出によって物語の雰囲気をじゅうぶんに引き出せることがわかりました。次はどのオペラでしょうか?楽しみです!!

東京芸術劇場読売日本交響楽団オーケストラ・アンサンブル金沢金沢歌劇座共同制作
G. プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」金沢公演

ジャコモ・プッチーニ G. Puccini (1858-1924)
歌劇「トゥーランドット」[セミステージ形式] Opera "Turandot" [semi-stage style]

日時:2009年7月18日(土)18:30開演
会場:金沢歌劇座

指揮:井上道義
演出:茂山千之丞

トゥーランドット姫[ソプラノ]:マリアナ・ツヴェトコヴァ 
皇帝アルトゥム[テノール]:鈴木寛一 
ティムール[バス]:ジョン・ハオ 
名を秘めた王子(カラフ)[テノール]:アレクサンドル・バディア 
リュー(若い女奴隷)[ソプラノ]小林沙羅 
ピン(宰相)[バリトン]:萩原淳 
パン(内大臣)[テノール]:与儀巧
ポン(総料理長)[テノール]:牧川修一
役人[バリトン]:小林大祐

ペルシアの王子:中村順一
プー・ティン・パオ:風李一成
ダンサー:伊津田愛

合唱:金沢カペラ合唱団(合唱指揮:山瀬泰吾)、新国立劇場合唱団、OEKエンジェルコーラス
管弦楽オーケストラ・アンサンブル金沢
コンサートマスター:松井直