かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

【OEK定期262M】金聖響のベートーヴェン第7番&第8番

この日の定期公演は、金聖響さんの指揮によるオール・ベートーヴェン聖響さんは2003年からOEKとのコンビで、ベートーヴェンの2、3、5、6、7番の交響曲を録音しています。一昨年、ブラームスの4つの交響曲を録音するため(これもOEK)全集録音は中断していましたが、今年からあらためてベートーヴェンチクルスシリーズを大阪で再開。金沢では今回、8番の録音が行われます。

まず1曲目は「プロメテウスの創造物」序曲。録音という緊張感からか、まずは引き締まった好演。そして続いて演奏されたのが交響曲第8番です。響敏也さんのプレトークで気づいたのですが、この日、6月13日というのは、故・岩城宏之永久名誉音楽監督(2006年逝去)のご命日。8番交響曲は、晩年「振るマラソン」などを通してベートーヴェンをますます追究していた岩城さんが、その中でもとりわけ愛した曲でした。革命的だった5番や6番、当時熱狂的に支持された7番と比べるといささか地味で古典的な印象がありますが、やはり聴けば聴くほど名曲でありました。

編成は、2管編成+弦5部が8-7-6-5-3。左から1stVn、Vc、Va、2ndVnの対向配置で、コントラバスが最後列中央に並びます。聖響さんが実践するピリオド・アプローチでは、通常のオケだとたとえば1stVnが16人→8人というように、編成を通常より絞るというイメージですが、OEKは8-6-4-4-2が基本型なので、聖響さんが指揮するときは、むしろ人員が増強されることになります。そのため、ノン・ヴィブラート奏法ではあるものの、古楽アプローチの常套句のように用いられる(ぼくもしばしば安易に使う)「軽快でスッキリとした響き」という表現よりも、逆にパワフルさが増しているようにさえ感じられました。

また、楽譜に忠実たらんとするピリオド・アプローチでは、通常聴き慣れているのより速いテンポで演奏されることが往々にしてあります。しかし聖響さんが自著や事前のインタビューで語っている通り、ここ石川県立音楽堂に関しては、残響がかなり豊かです。そのため、次の音に被らないように、あまりテンポを速めすぎることはしないとのことでした。たしかにこのホールでのフェルマータの後の残響はじつに心地よく、その響きがなくなるギリギリまでためて、ちょうどいいタイミングで次の音にいく、というのがすごく気持ちいい按配でした。このホールを知り尽くしているなあと感心します。

という感じで、第1楽章は華麗な演奏が繰り広げられました。続く第2楽章は緩徐楽章というわけではなく、わりとコミカルな楽章です。木管パートがメトロノームのように終始リズムを刻んでいるのが印象的。そして第3楽章のメヌエット。ここはホルンとクラリネットによる美しく牧歌的なメロディに、トランペットが鋭く絡んでいくのが面白い構成なのですが、今回はホルンがとにかくグダグダでした。この曲の1stホルンは金星さんではなくエキストラの奏者だったのですが、この録音はさすがにCDには使えないのでは…(事前収録したのを使うのでしょうか)。お気に入りの楽章だっただけに残念です。第4楽章は一転して快速。ここは気持ちよく聴けました。

後半はおなじみの第7番。聖響さんが、この曲を岩城さんに捧げると宣言して演奏が始まりました。この曲では、現在OEKに研修に訪れているホーチミン市交響楽団の5名の方(1stVn、2ndVn、Va、Vc、Cb)が加わり音響的にもさらに厚みを増しています。充実の第1楽章が繰り広げられました。第2楽章もノリントンのような驚異的なテンポで演奏することもなく、ほぼ通常のイメージどおりの葬送行進曲。ただしノン・ヴィブラートの弦の響きはこの楽章では特に幻想的に聴こえました。第3楽章は軽快。印象的だったのは、中間部(トリオ)で盛り上がっていく部分の、2ndホルン山田さんによる裏打ち的な低重音です(ゲシュトップト奏法?)。なお、この曲のホルンは金星さんが1st。多少音程の安定感に欠けるきらいはありましたが、音色はさすがに綺麗でした。よくも悪くもOEKはホルンがひとつの鍵を握っているような気がします。引き続き第4楽章へ。終盤の盛り上がりは特にすごく、ティンパニの強打が痛快で、おおいに盛り上がりました。

アンコールはやはり最後もベートーヴェンで、ト調のメヌエット。井上さんが踊りながら指揮をする姿が強く印象に残っていますが(笑)、熱狂の余韻にふさわしく、リラックスした感じで優しく上品に結びました。

8番でのホルンにはがっかりしたものの、最終的には結局満足してしまいました。終わりよければ全て良しというか、ベートーヴェンはやはり偉大というべきか。コンサートが終わってからも、またベートーヴェンを聴きたくなります。何杯でもメシが食える的な。

オーケストラ・アンサンブル金沢 Orchestra Ensemble Kanazawa
第262回定期公演マイスター・シリーズ
The 262th Subscription Concert / Meister-serie

日時:2009年6月13日(土)15:00開演 Saturday, 13 June 2009 at 15:00
会場:石川県立音楽堂コンサートホール Ishikawa Ongakudo Concert Hall
指揮:金聖響 Conductor: Seikyo Kim
コンサートマスター:アビゲイル・ヤング Concertmaster: Abigail Young

ベートーヴェン L. v. Beethoven (1770-1827)
 バレエ音楽「プロメテウスの創造物」序曲 作品43
 "The Creatures of Prometheus" Overture, Op.43

ベートーヴェン L. v. Beethoven (1770-1827)
 交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
 Symphony No.8 in F major, Op.93

  第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ・コン・ブリオ ヘ長調
  1st.Mov. Allegro vivace e con brio in F major

  第2楽章 アレグレット・スケルツァンド 変ロ長調
  2nd.Mov. Allegretto scherzando in B-flat minor

  第3楽章 テンポ・ディ・メヌエット ヘ長調
  3rd.Mov. Tempo di Menuetto in F major

  第4楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ ヘ長調
  4th.Mov. Allegro vivace in F major


---休憩---


ベートーヴェン L. v. Beethoven (1770-1827)
 交響曲 第7番 イ長調 作品92
 Symphony No.7 in A major Op.92

  第1楽章 ポコ・ソステヌート‐ヴィヴァーチェ イ長調
  1st.Mov. Poco sostenuto - Vivace in A major

  第2楽章 アレグレット イ短調
  2nd.Mov. Allegretto in A minor

  第3楽章 プレスト ヘ長調
  3rd.Mov. Presto in F major

  第4楽章 アレグロ・コン・ブリオ イ長調
  4th.Mov. Allegro con brio in A major

(アンコール)
ベートーヴェン L. v. Beethoven (1770-1827)
 6つのメヌエットより第2番 ト長調 WoO.10-2(ト調のメヌエット
 6 Menuette - No. 2 in G major, WoO.10-2 (Menuet in G)