かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

【OEK定期250PH】能とオーケストラのコラボレーション

今回のOEK定期公演は、能とオーケストラのコラボレーション。金沢は「空から謡が降ってくる」といわれるほど能楽の盛んな土地柄です。僕も「観能の夕べ」など、漫然とではありますが年に1、2度は鑑賞します。そんな金沢ならではのプログラムといえましょう。ステージも能舞台を模したものがこしらえられています。指揮は井上マエストロ。思えば井上さんのOEK音楽監督就任記念公演は、雅楽・声明とのコラボレーションでした。あいかわらず邦楽との共演も意欲的で、期待が膨らみます。

最初は能のみの上演で、舞囃子高砂」。結婚式などで謡われる「たかさごや~」というアレです。僕の乏しい能楽経験はいずれも石川県立能楽堂なのですが、それに比べるとこの音楽堂での残響のすごいこと!! 大鼓のコーン!という高音などは特に響きます。舞囃子というのはおいしい場面のみのいわばダイジェスト版。ワキも登場しないし、シテも能面や装束をつけません。クラシックコンサートのプログラムにたとえればなるほど序曲にあたるともいえましょう。

続いていったん能舞台が撤去され(その間短い休憩)、OEKによるステージが始まりました。まずは「十字軍の音楽」という作曲家不詳の音楽。世阿弥の能よりさらに古い音楽を!という井上マエストロのリクエストにより、OEKのライブラリアンが見つけ出した曲だとのこと。イスラムの香りのする3拍子の軽快な舞曲です。4つの小曲を、ユニクロっぽいハイネックロングTシャツ的なカラフルな衣装を着たOEKメンバーが、数人ずつピンスポットを浴びながら演奏します。最後の曲になると、井上マエストロが先導して他のメンバーも腕を組んで踊ります。水谷さんと松井さんの真面目コンビとか、大澤さんとボカニーさんの超ビッグコンビとか。

続いてはOEKメンバーの柳浦さんによるファゴット独奏で、ヴィヴァルディのファゴット協奏曲「夜」。バロックの音楽ですが、今日のラインナップでは新しい時代の作品ということになります。ファゴットの音色がやさしくとてもいい曲でした。照明や効果音を駆使した演出も。

再度の休憩を挟んで(ふたたび能舞台が設置され)、最後のブロックは狂言「見物左衛門」から。この演目は素人さんの狂言発表会か何かで見たような記憶もあります。爆笑するような演目ではありませんが、ひとり芝居で楽しげな祭りの情景を想像させ、ニヤリとさせられます。最後は「音楽堂へ能とオーケストラのコラボレーションを見物に参ろう」といったアレンジで和やかに落としました。

そしていよいよ本日のメイン演目、能とオーケストラのための「井筒」です。オーケストラは能舞台の奥上部に客席を背にして配置され、井上マエストロは客席に向かう形。今回のコラボレーション楽曲は、能「井筒」を囃子も地謡も通常通り上演し、その上にオーケストラの音色を伴奏的に重ねていくという試みでした。「井筒」の筋書きは、在原業平の妻が、業平亡き後、業平に扮して月夜に舞い、井戸に映る我が身を見て業平を偲ぶというもので、もともとはそれ自体とりたててストーリー性はありません。しかし、今回オーケストラによる伴奏効果で、切ない幽玄世界がよりドラマティックに表現されていたように思います。

そういえば、ラ・フォル・ジュルネ金沢2008のプレイベント「能舞とベートーヴェン」で、藪俊彦師がピアノ・ソナタ「月光」に合わせて舞っていた能が「井筒」でした。この演目は意外にクラシックと融和的なのかもしれません。

アンコールはOEKではなく金沢能楽会の囃子方による素囃子「獅子」。激しい曲調で聴き応え満点。能楽師さんたちによるカーテンコールは滅多に見られないので新鮮でした。

趣向を凝らしたプログラムの連続。大いに満喫しました。

オーケストラ・アンサンブル金沢
第250回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
「能とオーケストラのコラボレーション」

日時:2008年10月31日(金)19:00開演
会場:石川県立音楽堂コンサートホール
指揮:井上道義 Michiyoshi Inoue
能楽:金沢能楽会 Kanazawa Nougakukai
コンサート・マスター:松井直 Naoki Matsui

《能の舞台》

舞囃子高砂

 シテ:佐野由於
 笛 :吉野晴夫
 小鼓:住駒俊介
 大鼓:飯嶋六之佐
 太鼓:麦谷暁夫
 地謡:高橋右近 島村明宏 高橋憲正


---休憩---


《OEKのステージ》

■作曲家不詳
 「十字軍の音楽」から
 ・王の舞曲
   ~水谷元(Ob)/渡邉昭夫(打楽器)
 ・王のエスタンピI
   ~松井直(Vn)/黒瀬恵(手回しオルガン)
 ・王のエスタンピII
   ~大澤明(Vc)/フェレンツ・ボカニー(Cb)/渡邉昭夫(打楽器)
 ・王のエスタンピIII
   ~藤井幹人(Tp)/谷津謙一(Tp)/石黒靖典(Va)/??(打楽器)

■ヴィヴァルディ A. Vivaldi
 ファゴット協奏曲 変ロ長調 「夜」 RV.501 P.401 F.VII-I
 Concerto in B-flat major for basson "La Notte" RV.501 P.401 F.VII-I

  ~独奏:柳浦慎史 basson: Shinji Yagiura


---休憩---


《能とオーケストラのステージ》

狂言「見物左衛門」

 シテ:野村祐丞

高橋裕 Y. Takahashi
 能とオーケストラのための「井筒」(委嘱作品・世界初演
 "Izutsu" for Noh and Orchestra (Commissioned by O.E.K. in 2008, World Premiere)
 シテ:広島克栄
 ワキ:苗加登久治
 後見:佐野由於 島村明宏
 笛 :吉野晴夫
 小鼓:住駒俊介
 大鼓:飯嶋六之佐
 地謡:渡邊容之助 高橋右近 松本博 高橋憲正

(アンコール)
■素囃子「獅子」

 笛 :吉野晴夫
 小鼓:住駒俊介
 大鼓:飯嶋六之佐
 太鼓:麦谷暁夫