かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

OEK設立20周年記念公演「第九」

オーケストラ・アンサンブル金沢がこの秋、めでたく設立20周年を迎えました。20年前といえば1988年(昭和63年)、中日ドラゴンズが久々に優勝した年であります。郭源治が泣いております。勇んでナゴヤ球場(当時)に日本シリーズ第一戦を観に行ったはいいものの、初回いきなり清原選手に場外本塁打を浴びそのままシリーズ敗退した苦い思い出のある1988年の秋です。当時僕は大学3年生でした。就職活動などまだ全然念頭になく、講義もろくに受けずに週6日ビアレストランでアルバイトをしておりました。ケーハクなボンクラ学生です。金沢にオーケストラができたということはニュースで聞いておりましたが、当時はクラシック音楽にはまったく興味がなく、当然OEKの演奏に触れる機会もありませんでした。そうして、クラシック音楽に縁のないままさらに10年以上過ごしてきたのですが、数年前に高校の吹奏楽部をとりあげたテレビバラエティ番組が放映され、中学時代の一時期吹奏楽部に所属しフルートを吹いていた頃の音楽の楽しみを思い出しました。やがて、吹奏楽シエナ・ウィンド・オーケストラ→佐渡裕マエストロという流れの末、本格的なクラシック音楽に興味を持ち始め、初心者向けCDセットなどを聴いて楽しむようになりました。そして、せっかく地元にプロオケがあるのだからと初めて生演奏を聴いてみたところ衝撃を受けたのが2006年の初頭。以来、演奏会の魅力にとりつかれ、間もなくOEK定期会員に加入し、定期会員も3シーズン目を迎えました。まあこんな僕の個人遍歴は別にいいでしょう。

プレコンサート。ホワイエにサイモン・ブランディスさん(1stVn)、ヴォーン・ヒューズさん(2ndVn)、古宮山由里さん(Va)、ルドヴィート・カンタさん(Vc)が登場。さらに2本のトランペットが加わり、シャルパンティエ「テ・デウム」で祝祭っぽく華やかに。そして弦楽四重奏曲を2曲。曲名不明のやつ(汗)と、ブラームスハンガリー舞曲第5番」。ブランディスさんとヒューズさんは風貌がそっくりです。とりわけお辞儀したときのスキンヘッドの頭頂部などはまったく区別できません。今回至近距離で見る機会を得ましたが、結局、決定的な違いというものが見出せませんでした。

谷本正憲石川県知事の祝辞(および「20歳には誰だってなれる」と言う井上道義音楽監督との掛け合い)の後、いよいよ演奏会開始です。今回はギドン・クレーメルさん率いるクレメラータ・バルティカとの合同公演で、弦楽部はいつものほぼ倍、15-12-8-8-4の構成でした。クレメラータ・バルティカのみなさんは客演で頻繁にOEKに参加していただいていますが、今回も各プルトの裏でOEKを支えてくれる形になっていました。

まずは序曲「レオノーレ」第3番。「レオノーレ」とは、ベートーヴェン作の唯一の歌劇「フィデリオ」の旧題(主人公の名が「レオノーレ」)。序曲も改訂が繰り返され、「レオノーレ」序曲1~3番と「フィデリオ」序曲の計4曲が作られました。この「レオノーレ」第3番は、そのうちで最も演奏機会が多いようです。曲は重々しい感じで始まり、徐々に華やかに盛り上がってきます。最も印象的なのは、途中に挿入されるトランペットのファンファーレソロ。といっても、音はどこか遠くから聴こえ、舞台上を探しても誰も吹いている様子が見えません。音はすれども姿は見えず。ほんにあなたは以下自粛。しばらくするとそのファンファーレがもう一度聴こえてきます。気がつけば2階オルガンステージ奥の扉が開いており、ファンファーレが終わると閉じられました。どうやらこのオルガンステージ裏で演奏していたのでしょう。遠くから響いてくる感じが効果的でした。

次はクレーメルさんの独奏によるカンチェリのヴァイオリン協奏曲「Lonsome(孤軍)」。昨年亡くなったチェロの巨匠ロストロポーヴィチの75歳の誕生日のために作られた曲で、「偉大なスラヴァに、2人のGKから」と副題が付いています。「スラヴァ」というのはロストロポーヴィチの愛称で、「2人のGK」とは、Giya Kancheli=カンチェリとGidon Kremer=クレーメルのこと。クレーメルさんが泣くように奏でる極小の微弱音と、ときおり弾ける爆発的な管弦楽が対照的で、際どい緊張感を保ちながら曲は進んでいきます。カンチェリの故郷グルジアは、今、ロシアとの軍事紛争の渦中にあります。同じく旧ソ連ラトビア)出身のクレーメルさんも心を痛められていることでしょう。人類平和を歌う「第九」演奏の前にこの曲を日本初演するというのも、そういう意味合いが込められているのでしょう(公演の最後に井上マエストロがそのことを補足説明していました)。

飲み物が振舞われた休憩を挟んで、いよいよベートーヴェン「第九」です。OEK合唱団を中心とした100人を超える合唱隊がステージ後方にスタンバイしています(バス最前列一番右の人は松葉杖をついていました。直近に骨折してしまったのでしょうか)。僕個人としては「第九」をナマで通しで聴くのはこれが初めて。前述の通り僕自身のクラシック経験が乏しいということもあるのですが、そもそもOEKも第九を演奏する機会がかなり少ないようです。室内オーケストラという編成的な問題もありますし、何より年末になると日本全国あちこちで第九が演奏される風潮に、岩城さんも井上さんも批判的であるというのが大きな理由だそうです。設立20周年記念という特別な節目だからこそ演奏されるのであって、だとすればやはり今回の演奏は貴重な機会といえましょう。果たして、演奏は集中力に満ち、期待通りたっぷりと聴き応えがありました。ここぞというときにはマエストロ井上の指揮にも力がみなぎり、大編成オーケストラの厚みのある響きに贅沢な気分を味わえます。そして最終楽章、直野さんのバリトン独唱が響き渡ると、また違った緊張感が覆い、合唱が重なることでさらに高揚感を増してきます。ソリストの四重唱、そして最後のコーダと続き(その寸前に一瞬静かになるところでケータイを鳴らすバカモノがいたのは非常に腹立たしいですが)、お祝いにふさわしくハイテンションのまま華やかに結びました。

設立20周年という節目の公演でこのような素晴らしい演奏を聴けて幸せでした。僕自身はOEKの20年の歴史のうち3年半くらいしか接していませんが、これからは末永く聴かせてもらいたいと思います。そしてたとえば今から20年後、設立40周年のときは僕のファン歴も23年半となり、OEKの歴史の半分以上を共にしたことになります。そうなればOEKの支援者として胸を張って誇ることができるでしょうか。まあ、その頃は僕も61歳。そこまで継続するためには情熱はもちろんですが、健康と財力が不可欠であり、そちらはおおいに不安が残るのでした。

オーケストラ・アンサンブル金沢
設立20周年記念公演

日時:2008年9月15日(月・祝)15:00開演
会場:石川県立音楽堂コンサートホール
指揮:井上道義
管弦楽オーケストラ・アンサンブル金沢&クレメラータ・バルティカ
コンサートマスター:サイモン・ブレンディス

ベートーヴェン
 序曲「レオノーレ」第3番 ハ長調 op.72b

■カンチェリ
 ロンサム(孤軍)~偉大なスラヴァ2(に)、2人のGKから (日本初演
 Lonsome "2 great Slava from 2 GK's"
 ~ヴァイオリン:ギドン・クレーメル

---休憩---

ベートーヴェン
 交響曲 第9番 ニ短調 op.125 「合唱付き」

 ~ソプラノ:澤畑恵美
  アルト :菅有実子
  テノール:中鉢聡
  バリトン:直野資

  合唱:オーケストラ・アンサンブル金沢合唱団&20周年記念合唱団
  合唱指揮:佐々木正利