かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

浅田次郎「天切り松 闇がたり 第三巻 初湯千両」

4087478262天切り松 闇がたり3 初湯千両
浅田 次郎


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

浅田次郎「天切り松 闇がたり」シリーズの第三弾。以前読んで大興奮した第1巻「闇の花道」、第2巻「残侠」に引き続き、これまた大正義賊に痺れまくる珠玉の傑作。

表題の「初湯千両」では、くだらない戦争に憤る説教寅兄イが陸軍大将の喉元に出刃を突き立てる。百面相の書生常は手前の仕事っぷりはお釈迦様でも知りゃしやせんと親分にすら啖呵を切り(「共犯」)、黄不動の栄治は幼なじみの名妓小龍の呪縛を解くために帝室博物館の屋根を抜く(大楠公の太刀)。道化の親子の笑顔は哀しいほど一筋で(「道化の恋文」)、目細の安吉親分はどこまでも信義に篤く、そして果てしなく優しい(「銀次蔭盃」)。こうした快作揃いの中でも特に、女スリ・おこん姐御が竹久夢二に見染められた話「宵待草」はひとあじ違って目を惹いた。

夢二といえば、彼は一時期、最愛の女性・彦乃とともに金沢の湯涌温泉に滞在し、穏やかで濃密なときを過ごしたことがある。

 湯涌なる山ふところの小春日に
 眼閉じ死なむときみのいふなり

それにちなみ、湯涌温泉には現在「金沢湯涌夢二館」という展示館が建っているのだが、先日たまたま足を運ぶ機会を得た。そこには、夢二が彦乃の死を悲しみ「ゆめ35しの25」と刻んで終生外さなかったという指輪(レプリカ)も展示されている。当編の「宵待草」というのは、まさにその指輪をめぐる切なくも美しい物語であり、これを読んだ直後だった私は、おお、こいつが例の指輪かと感慨深く眺めたのであった。

4582920209竹久夢二


Amazonで詳しく見る
by G-Tools