かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

十三人の刺客

【注意:ネタバレあり】
将軍の弟にして次期老中の明石藩主・松平斉韶は稀に見る極悪残虐な暴君。筆頭老中土井大炊頭の命を受けた御目付島田新左衛門は、斉韶を暗殺するため刺客団を組織、参勤交代の道中を狙って命懸けの大勝負に出ます。1963年に公開された工藤栄一監督の傑作時代劇だそうですけど、それは知りませんでした。今回、三池崇史監督によりリメイク。

各方面から評判が聞こえてくる通り、暴君・松平斉韶役の稲垣吾郎さんが深く印象に残ります。生まれついての静かなる狂気。自らの振る舞いに対する疑いのなさ…表情は端正なままなのに、たしかに底知れぬ冷たい恐怖を観る者に与えるのです。

ラスト数十分はひたすら斬り合い。相手は300人という途方もない負け戦の中、十三人の刺客たちは、まずは緻密に、やがて体力の続く限り野放図な斬り込み勝負を挑んでいきます。これだけ長い時間えんえんと立ち回りの映像が続くと、さすがに自分もその場に引きずり込まれたかのような臨場感を覚えますね。なにごとも徹底することは大事(笑)。

興味深く思ったのは、今回の戦いに挑む者たちは皆それぞれ異なる思いを抱えながらも、自らの行動はいずれも「侍」としての倫理に基づくものと信じているところ。新左衛門は自らが仕える筆頭老中の命に従い極悪非道なる敵を倒すという「侍」の本懐のため、刺客団に選抜された若き役人たちは主君徳川家に対する「侍」としての忠義のため、浪人は拾ってくれた新左衛門に対する「侍」としての恩義に報いるため、剣術を志す若者は「侍」として剣技を役立たせるためにそれぞれ戦います。また、新左衛門の同門で好敵手、明石藩用人となった鬼頭半兵衛は、自らの主君の傍若無人ぶりを充分承知しつつも、それでもやはり「侍」の使命として命を賭けて主君を守ろうとします。さらに、かかる暴君・松平斉韶ですら、その残虐な振る舞いは「侍」としての戦闘本能の表れであったりするのです。

そうして侍の精神を掲げて突き進んだ者たちが次々と倒れるなか、戦い終わって生き残った者というのは、侍のあり方に虚しさを感じ、あるいは侍なんてつまらないとうそぶく者でした。侍を誇りに思うものが滅び、侍というものの価値を否定する者が生き残ったのいうのは実に象徴的で、まもなく訪れる武士の世の終焉を告げているかのようでした。

今回は父親を連れて鑑賞。父親は片町香林坊から映画館が消えて以来、いちども映画館で映画を観に行っていなかったのですが、もともと時代劇やアクションエンターテインメント作品が大好き。はじめてのシネマコンプレックスに戸惑いつつも、観終わった後は相当興奮しておりました。喜んでくれたようでヨカッタヨカッタ。

★★★★

(2010/10/02@ユナイテッドシネマ金沢)