かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

金澤攝「ピアノ・エチュード大観」― 1830年代のエチュード史 ― 第1景 フェルナンド・ヒラー(2010/09/28)

歴史に埋もれた名曲の発掘・研究・紹介を生涯のテーマとして取り組む金沢在住の作曲家・ピアニスト、金澤攝(かなざわをさむ)さん。今月から「『ピアノ・エチュード大観』― 1830年代のエチュード史 ―」と題し、知られざるロマン派の作曲家によるピアノ・エチュードを演奏する新シリーズが始まりました。本日の第1回目はフェルナンド・ヒラー。ショパンシューマンメンデルスゾーンらと親交が深く、ピアニスト、指揮者、音楽学校の学長など多方面に豊かな才能を発揮した作曲家だそうです。今回はそのヒラーの6つのエチュード組曲(24のエチュード集)を、金澤攝さんが演奏します。

今回のこのコンサートシリーズは、以前から金澤攝さんのファンだというizmiさんに教えてもらったもの。金澤攝さんについては、音楽堂で独自路線のコンサートを開いているということは以前に聞いたことがあります。また、今年に入ってからは、金沢21世紀美術館のイベントで作品や演奏に触れる機会もありました。3月の「music@rt SeasonIII vol.4 光の散策」では「ジュ・ドゥ・タンブル」なる鍵盤楽器を使用した新曲初演。今月初めの「建築と音のアンサンブル」では、OEKメンバーの九重奏による新曲初演と、自らの演奏による20世紀の作曲家のピアノ作品。でもリサイタル形式できちんと実演を聴くのは今回が初めてなので、楽しみにしていたのです。

ただ、「建築と音のアンサンブル」におけるピアノ演奏で金澤攝さんにすっかり魅了されたJZさんは、仕事のため今回は残念ながら欠席。お客さん全体の数はまあ…数十人程度といったところ。少々さびしいですけど、会場にはizmiさんとCamillaさんが到着し、ともに音楽会の始まりを待ちます。

今回演奏された「6つのエチュード組曲」は、ヒラーの24のエチュードを6つの組曲にて構成したもの。第1組曲(6曲)、第2組曲(4曲)、第3組曲(3曲)、第4組曲(4曲)、第5組曲(3曲)、第6組曲(4曲)の全24曲が順に演奏されました。基本的には初期ロマン派らしい楽想でしたが、そのなかには、ショパンのような華麗さ、シューマンのような知的さ、リストのような技巧、メンデルスゾーンのような屈託のなさなど、いろんな表情が垣間見えました。さらには、ときおり突如として不協和音が放り込まれて近代っぽい響きがする曲があったり(まだ時代は先なのに!)、第3組曲の第12曲などはフーガ形式でどっぷりバロックだったりして、組曲としてはじつに多彩で、ひじょうにおもしろいことになっていました。金澤攝さんがヒラーの才能を評価する所以でしょう。もっとも、個人的には、今日はなぜだか冒頭の演奏に集中し損ねてしまい、最初の方はやや印象がふわふわしています。もったいないことしました。ちょっと悔しいです。

金澤攝さんの演奏に関しては、ピアノ経験者のCamillaさんにも確認したのですが、技術的には決して上手とはいえません(苦笑)。前回21美で聴いたときは、天井が高くて広い美術館の展示室だったため残響がめちゃくちゃ多く、しかも全館無料で観客が溢れる独特な環境(=ちょっとした躁状態)だったということもあるのでしょうか、あまり技術的な面まで気を留めなかったという面はあります。ですが、こういうリサイタル形式だと、どうしても技巧の拙さは目立ってしまいます。

もっとも、今回のコンサートに実際に来てみて、プログラム解説の充実ぶりなどをみると、これは単なるピアノリサイタルではなく、「歴史に埋もれた名曲の発掘・研究・紹介」を自らの使命と任ずる金澤攝さんの研究発表の場といった感じもします。聴衆としても、演奏を聴いてその音楽の世界に心を委ねて感情を揺すぶられる…というよりも、未知の作曲家がどのような曲を書いたのか、同時代の音楽家とどんなかかわりがあったのか…その時代の音楽界の大きなうねりに想いを馳せ、音楽的知的好奇心をくすぐられるという面が大きいような。

とはいえ、金澤攝さんがピアノに向かって演奏する姿には、この無名だが素晴らしい作曲家をなんとしても世に紹介するのだ!俺がしなくて誰がする…!という強い決意、執念、使命感というようなものがひしひしと感じられました。そういった金澤攝さんの情熱はたしかに聴衆に伝わり、胸を打つものがあるでしょう。その意味ではやはり、演奏を聴いて感じるものはあるのです。

次回の公演予定はは10/1(金)。ショパンとジギスモント・タールベルクのエチュードです。タールベルクというのはまるで知らない作曲家なんですが、金澤攝さんの手によって、またその面白さを教えてもらえることを期待したいと思います。

金澤攝ピアノ独奏「ピアノ・エチュード大観」―1830年代のエチュード史―
第1景 フェルディナント・ヒラー Ferdinand Hiller (1811-1885)

日時:2010年9月28日(火)19:00開演 Tuesday, 28 September 2010 at 19:00
会場:石川県立音楽堂交流ホール Ishikawa Ongakudo Interchange Hall
構成・演奏:金澤攝 Osamu N.Kanazawa


■フェルディナント・ヒラー Ferdinand Hiller

6つのエチュード組曲 作品15 Six suites d'Etudes op.15
(ジャコモ・マイアベーア氏へ献呈 D���di���es ��� Monsieur Meyerbeer)

第1組曲 Premi���re Suite
 第1曲 Allegro energico イ短調
 第2曲 Allegro con fuoco ニ短調
 第3曲 Andante religioso イ短調
 第4曲 Molto vivace ホ短調
 第5曲 Allgretto grazioso ハ長調
 第6曲 Allegro maestoso ホ長調

第2組曲 Seconde Suite
 第7曲 Andante poco agitato 変ホ短調
 第8曲 Molto vivace ロ長調
 第9曲 Lento ma non troppo 変イ長調
 第10曲 Allegro moderato 変ホ長調

---------- 休憩 Intermission ----------

第3組曲 Troisi���me Suite
 第11曲 Con forza ma non troppo vivace ハ短調
 第12曲 Andante ヘ短調
 第13曲 GIGUE: Molto vivace ジーグ:ハ長調

第4組曲 Quatri���me Suite
 第14曲 Agitato 嬰ヘ長調
 第15曲 Moderato イ長調
 第16曲 Andante con espressione 変ニ長調
 第17曲 Vivacissimo 嬰ヘ短調

---------- 休憩 Intermission ----------

第5組曲 Cinqui���me Suite
 第18曲 Allegro con grazia ト長調
 第19曲 Molto adagio ロ短調
 第20曲 Allegro energico ニ長調

第6組曲 Six���me Suite
 第21曲 Moderato 変ロ短調
 第22曲 Molto allegro ヘ長調
 第23曲 Allegro con grazia ト短調
 第24曲 Prestissimo 変ロ長調

(アンコール Encore)
妖精の踊り 作品9 Dance de f���es op.9