かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

OEK「もっとカンタービレ♪」第22回 IMA&カンタービレ ジョイントコンサート

この時期、石川県立音楽堂では、国内外の著名講師陣を招いて、いしかわミュージックアカデミー(IMA)というプロを目指す若き演奏家のためのマスタークラスが開かれています。今回のOEK楽団員による「もっとカンタービレ」は、そのIMA講師陣とのジョイントコンサート。かなりのビッグネームによる室内楽が(2000円という破格値で)楽しめるなんて…! これはぜひ行かねばなりますまい。

会場に着くと、まだ開場時間をちょっと過ぎたあたりなのに長蛇の列。ふだんの「もっとカンタービレ」よりそうとう大勢の聴衆が訪れているもようです。IMA受講生や聴講者らも、お目当ての先生の本気の演奏を聴けるとあって、大挙押しかけているのでしょう。全体的にいつもより圧倒的に年齢層が低いです。…とかのんびり分析してる場合ではない! 超満員で座席が見当たらないのです! 係の方が急遽椅子を大量に追加してくれたため、どうにか座席を確保。いちばん左端でしたが、前後としては中央付近なのでまあよしとしましょう。後ろの屋根の下でなくてよかった。

1曲目、いきなり神尾真由子さんが登場。パガニーニの24のカプリース。いやあ、凄い!のひとこと。まさに神尾節の爆音炸裂。強靭でクリア、パワーあふれる存在感。それでいてスムーズで繊細な超絶技巧の数々を軽々と弾いてのける。巨大ブルドーザーが大量の砂利を一発の作業で豪快に運び去り、通り過ぎた後には一粒たりとも残っていないくらいの神業。今回のIMAで神尾さんに学んだ受講生、聴講生たちが実際にこれを聴いっちゃった日には、そりゃあ心酔間違いなしですなあ。でも、やはりぼくとしては、彼女くらいのパワフルさがあれば、オケとがっぷり四つに組んだコンチェルトこそを期待しちゃうなあ。過去に聴いたブルッフチャイコフスキーがいずれも凄かったので…! あるいは逆に、シベリウスとか枯れた系の曲だとどうなるのか聴いてみたい気もします。

次はブラームスクラリネット五重奏曲。IMA講師陣からは1stヴァイオリンの原田幸一郎さんとチェロのサンミン・パクさん。OEKから2ndヴァイオリンの江原さん、ヴィオラのシンヤン・ベックさんと、クラリネットが遠藤さんです。原田さんのヴァイオリンは実にやさしく穏やか。初聴なのでよくわからないけど、もともとそんな曲なのかな? でも、ついさっき神尾さんの剛速球を聴いたばかりだからなおさらそう感じるのです。そんなわけで、ブラームスにしては重厚感はさほどなく、むしろメロディの繊細な美しさがより際立っているように感じました。遠藤さんのクラリネットはやわらかく堅実。「もっと来い!」と願う部分もありましたが、バランスとしてはこれくらいが丁度よかったのかもしれませんね。なお、このクインテットですが、原田さんと江原さん、パクさんとベックさんはもともとそれぞれ師弟関係なんだそうで、まとまりも非常に良かったと思います。

後半はドヴォルザークピアノ五重奏曲。これはすごかった…! この曲こそ、誰が何を言おうと、まさしく本日の白眉でした。5名のメンバーは全員がIMA講師陣。なかでもパスキエさんという超大物がいるため、神尾さんが2nd、原田さんがヴィオラに回るという豪華布陣。

そもそもこの曲自体(初聴でしたが)実に素敵なのです。どこか日本人の琴線に触れるのか、一瞬にして心を掴まれる旋律の数々…! ドヴォルザーク、最近見直すことが多いです(6月定期の交響曲8番6月もっとカンタービレの弦楽セレナード)。

第1楽章、始まりはチュンモ・カンさんのピアノから軽やかに。間もなく毛利さんのチェロがロマンティックな主題をゆったりと奏でると、一気に郷愁を誘うドヴォルザークの世界へ。後半は各パートが激しく交差し、なんとも華麗。第2楽章ドゥムカは、カンさんのピアノと、原田さんのヴィオラが美しく物悲しい主題を演奏してはじまります。これヴィオラ!?ってくらい異質な艶のある高音美音に衝撃。ところが再びの主題再現では、今度はヴィオラがすっかりいぶし銀の重低音の響き。自由自在な原田さんのヴィオラ、恐るべし…! 第3楽章フリアントは本能的に楽しい。各楽器がそれぞれ無邪気に遊ぶようなエキサイティングなボヘミア舞曲。第4楽章。勢いは止まりません。軽快なピアノに、交錯し合い厚みを増す弦。それらが絡みあって、極上のアンサンブルを紡ぎ出します。

…いやあ、それにしてもすごかった。ドヴォルザークの曲自体の良さも当然ありますが、やはり今回に関しては、演奏者が素晴らしすぎました。ヴィオラの原田さんは先にも述べたように自由自在。チェロの毛利さんはロマンティックな旋律を気負うことなく悠然と。ピアノのチュンモ・カンさんは軽やかに、またあるときはインパクトたっぷりに。そして神尾さん。2ndヴァイオリンをやることにもビックリしましたが、あんなにセカンドヴァイオリンが鳴っている室内楽を初めて聴きましたよ。リーダーヴァイオリンのパスキエさんと張り合って弾いてるんじゃないかと思えるくらい(あながち間違っていない気がしますww)。結果、パスキエさんと神尾さんのユニゾンの部分などは、それはそれは強力でした。

全員がソリストとして活躍し、それぞれ個性的で華のある演奏者たち。こういうソリストたちによる室内楽ってぼくはほとんど聴いた覚えはないんですが、彼らが本気のアンサンブルをやると、やはりものすごいことになるんだなあと実感しました。ですから、ブラームスのときは5人中OEK団員が3人でしたが、まあ、いくら素晴らしいと言っても従来聴いている室内楽の想像の範囲内ですよ。しかしこのドヴォルザークは違いました。全員がソリストという豪華編成は、何ヶ所か盛大にバラついた場面もありましたけど、そんなミスを吹き飛ばすような、いままで聴いていた室内楽とはまるで次元の異なる濃い演奏でした。こんな華やかな室内楽があるんだ…。終演後もしばし声が出ない…。なかなか得がたい経験です。

なお、プログラム発表当時は、この5名でシューマンピアノ五重奏曲を演奏する予定だったんですが、ドヴォルザークに急遽変更となったとのこと。なるほど、シューマンよりも華やかで表情豊かなドヴォルザークのほうがこの個性的なメンバーには合っていたと思います。なので結果的には、選曲を変更したのが成功したといえましょう。まさに「ブラヴォー!」でした。金沢では珍しくスタンディングオベーションまで巻き起こりましたし。


余談。コンサートプログラムによると、今回からこの「もっとカンタービレ」は、従来の「オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ」から「オーケストラ・アンサンブル金沢楽団員オールプロデュース!」と副題が変更されているようです。これは次回の「もっとカンタービレ」公演で井上道義音楽監督による新作能とクラシックのコラボがおこなわれるように、必ずしも室内楽にとどまらなくなったということでしょうかね。

オーケストラ・アンサンブル金沢楽団員オールプロデュース!「もっとカンタービレ♪」
第22回 IMA&カンタービレ ジョイントコンサート
Orchestra Ensemble Kanazawa "Motto Cantabile" Vol.22

日時:2010年8月22日(日)18:00開演 Sunday, 22 August 2010 at 18:00
会場:石川県立音楽堂交流ホール Ishikawa Ongakudo Interchange Hall

パガニーニ Niccolo Paganini
 24のカプリース(奇想曲)作品1より 24 Capricci op.1
  第20番:アレグレット ニ長調 No.20: Allegretto in D major
  第 4番:マエストーソ ハ短調 No. 4: Maestoso in C minor
  第11番:アンダンテ;プレスト ハ長調 No.11: Andante, Presto in C major
  第21番:アモローゾ;プレスト イ長調 No.21: Amoroso, Presto in A mojor
  第24番:クワジ・プレスト イ短調 No.24: Quasi presto in A minor
 ~ヴァイオリン:神尾真由子
  Kamio Mayuko, Violin

ブラームス Johannes Brahms
 クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115
 Clarinet quintet in B minor, op.115
 ~ヴァイオリンI:原田幸一郎 Koichiro Harada, 1st Violin
  ヴァイオリンII:江原千絵(OEK) Chie Ebara (OEK), 2nd Violin
  ヴィオラ:シンヤン・ベック(OEK) Shin-Young Baik (OEK), Viola
  チェロ:サンミン・パク Sang-Min Park, Cello
  クラリネット:遠藤文代(OEK) Fumiyo Endo (OEK), Clarinet

--- 休憩 Intermission ---

ドヴォルザーク Antonin Dvorak
 ピアノ五重奏曲 イ長調 作品81
 Piano quintet in A major, op.81
 ~ヴァイオリンI:レジス・パスキエ R���gis Pasquier, 1st Violin
  ヴァイオリンII:神尾真由子 Mayuko Kamio, 2nd Violin
  ヴィオラ原田幸一郎 Koichiro Harada, Viola
  チェロ:毛利伯郎 Hakuro Mori, Cello
  ピアノ:チュンモ・カン Choong-Mo Kang, Piano