かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

シャネル&ストラヴィンスキー

ストラヴィンスキーの「春の祭典」といえば、初演時の大騒動がひとつの伝説となっています。複雑なリズムや不協和音、そしてバレエの振り付けが当時としては前衛的すぎたため、客席から嘲笑、野次、怒号が飛び交いました。ついには客同士で殴り合いが起き、怪我人が出るほどの騒ぎになったということです。当作品もその騒乱を克明に描いており、とりあえずそれだけでも興味深い(笑)。

それはさておき。このイワクツキの初演を観ていたのが、当時すでに服飾デザイナーとして富と名声を得ていたココ・シャネル。酷評された作曲家本人が落ち込む一方で、シャネルはこの新鋭作曲家の才能に惚れ込みます。ストラヴィンスキーに生活の援助を申し出て、家族ともども自らの別邸に住まわせることに。

で、ここからはフィクションらしいのですが、このふたりの芸術家はどちらからともなく惹かれあい、やがて肉欲に溺れてゆきます。これら一連の描写は緊張感にあふれ、そしてなんというか、ナマナマしい(照)。しかしこうした艶めかしい愛の日々は、ふたりの芸術活動に色濃く影響を及ぼすのでありました。シャネルは激しく情熱的な愛欲の香りを「シャネルの5番」という歴史的逸品に昇華させます。シャネルの美しさはなんとも気高く、その存在感は群を抜いていたのでありました。

他方、ストラヴィンスキーは色香に惑うあまり心身ともに消耗し破滅寸前まで追い込まれてしまいます。このストラヴィンスキーの弱さ、人間くささもまた真理。やがてこの苦悩を脱し新境地がひらけたとき、シャネルとストラヴィンスキーは、それぞれ確固たる稀代の芸術家に戻り、同志として芸術に再び向き合っていくのでした。そして見逃せないのがエピローグ。晩年のふたりの描写が切なく胸を打ちます。

★★★★

(2010/02/28@シネモンド)