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かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

南極料理人

ペンギンやアザラシはもちろん、ウィルスさえ生息しない極寒の地・南極ドームふじ基地南極観測隊として働く8人の男たちの誇り高き仕事ぶりに迫る!・・・という「プロフェッショナル仕事の流儀」的な硬派なものではまったくありません。極限かつ劇的であろう任務遂行シーンはごくわずか。この作品が描くのは劇的でもなんでもない南極観測隊の日常生活です。

原作↓
4101153515面白南極料理人 (新潮文庫)
新潮社 2004-09

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妻の反対を押し切って赴任した雪氷学者の「モトさん」(生瀬勝久)は、中国文化研究会=麻雀の主催者。最年少隊員「兄やん」(高良健吾)は恋人との遠距離電話があやうい感じに。車両担当の「主任」(古舘寛治)はホームシックで任務をサボタージュし尾崎を唄い、そんな姿に大気学者の「平さん」(小浜正寛)は無責任だと怒り狂います。かと思えば医療担当の「ドクター」(豊原功補)は体を鍛えたり医務室でバーを開店したりとすっかり南極生活を堪能。気象学者の「隊長」(きたろう)と通信担当の「盆」(黒田大輔)は盗み食いに余念がありません。

家族や恋人と遠く離れ、閉鎖された極寒空間で、顔を合わせるのはいつも同じ顔ぶれのむさ苦しい男たち。この究極の単身赴任生活において、数少ない楽しみといえば「食べる」こと。そこで堺雅人さん演じる調理担当隊員の西村淳シェフが料理の腕をふるうというわけです。

南極観測隊の朝はモーツァルトフィガロの結婚」序曲ではじまります。昼食の呼び出し放送は、ワーグナーワルキューレの騎行」に乗って。彼らの日々は意外と単調です。そのため生活にメリハリをつけられるイベントごとはけっこう重要。いい大人が誕生会や節分の豆まきを楽しみにしています。6月下旬、南半球の冬至「ミッドウィンター祭」などは、フレンチディナーで厳かに祝うのです。BGMはエルガーの「愛の挨拶」。本作は、そうした日常生活の喜怒哀楽がほのぼのと描かれ、終始くすくすと笑えます。

そして何といっても、登場する料理がどれも美味しそう! 「かもめ食堂「めがね」でもフードスタイリストをつとめた飯島奈美さんの料理です。おにぎりやラーメンを隊員たちがむさぼり食う場面などは、空腹状態で鑑賞した場合、「食べたい~~」と悶絶すること必至でしょう。僕はそのことを見越して満腹状態で観に行きましたが、ここはあえてお腹を空かせて観に行ったほうが、より本作の価値が高まっていいかもしれません。映画帰りの食事が楽しみになること請け合いです。

4579210875ごはんにしよう。―映画「南極料理人」のレシピ
文化出版局 2009-07-25

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ただし、こんなに美味そうな料理が続々出てくるわりには、本作において隊員たちは一言も「おいしい」とか「うまい」とかは言いません。満足しているような表情すらほとんど見せないのです。でも、彼らが満たされているさまはじゅうぶん伝わります。これはすごいと思いました。本作ではたった1回だけ「ウマっ!」という台詞が出てきますが、そのぶん、その台詞の意味がまた深いあじわいがあるわけです。

堺さんは調理担当という脇役的観点から、個性豊かな隊員たちを観察するような冷静で抑えた演技。彼が唯一感情を決壊させる場面がありますが、その感情もとくにその背景は直接語られません。それでもじゅうぶん説得力があり、不覚にもホロリときてしまいました。堺シェフの任期における微妙な変わりようも面白かった。最初の頃は盛り付けまでそうとう丁寧におこなっているのですが、終わりの方はわりと適当な感じになっていました。身なりにもあまり気を使わなくなって、他人のジャージを勝手にはいていたり、モトさんに対する言葉遣いも馴れ馴れしくなっていたりと芸が細かい。

監督の沖田修一さんは弱冠31歳。タダモノではない予感がします。次回作も要チェックですね!!


(2009/10/03@ワーナー・マイカル・シネマズ御経塚)

★★★★★