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かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

TAJOMARU

原作は芥川龍之介の短編小説「藪の中」、しかも盗賊「多襄丸」を演じるのは小栗旬さん。大河ドラマ天地人」で石田三成役を好演している小栗旬さんが時代劇映画を主演すると聞き、おおいに期待して観に行ったのですが…いまひとつ好みに合いませんでした。

原作の「藪の中」では、旅の男女が山中で盗賊「多襄丸」に襲われ、男が藪の中で死んでいるのが見つかります。物語はこの事件についての関係者の証言で構成されているのですが、当事者である多襄丸、男の妻、および巫女によって呼び出された男の霊のそれぞれの証言が食い違っており(みな自分が殺したと言う)、結局真犯人は明らかにされません。まさに真相は「藪の中」。読者の解釈に委ねられています。
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岩波書店 1980-01

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そして、この「藪の中」について一定の解釈を示したのが黒澤明監督作品の「羅生門」です。事件の一部始終を目撃していた人物を登場させ、物語の最後に事の真相を語るのです。果たして真相は、なんとも情けなくみっともなく、ある意味実に人間くさいものでした。
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他方、本作「TAJOMARU」ですが、「旅の男女が山中で多襄丸に襲われる」という場面こそ出てくるものの、それはあくまで本作で巻き起こるいくつかの事件のひとつにすぎません。時代設定、人物設定はもちろん、この事件が起こる背景、その後に起きる奇想天外な展開など、いろいろ話がくっついており、原作とはまったく違う話といっていいでしょう。それはそれで構わないですし、それなりに興味深い筋書きになってはいるとは思います。

ところが、本作では「結局、愛がすべて」みたいな純愛物語として結論付けられており、そのテのむずがゆ~い作品が僕はあまり得意ではないのでした。これが映画ではなく歌舞伎だったらそこまで違和感はなかったかもしれませんが…。また、登場人物の善玉と悪玉がハッキリしすぎていて、人物描写があまりにも浅い。桜丸という人物などは物語の鍵を握るにもかかわらず、どうしてそういうことになったのか、説得力がまるで欠けているように思います。ほかにも、せっかく畠山管領家を舞台とし足利将軍家も登場するというのに、言葉遣いも行動様式も思想パターンも現代劇のノリが終始支配し、時代劇とは名ばかり、時代劇のフォーマットを借りた安っぽい青春純愛ドラマといった感じでした。

黒澤作品と比べるのは酷というものですが、「羅生門」は人間の弱さを描いていながら、ラストでなんとなく希望が見えるのに対し、本作は「愛の力」を貫いた主人公に希望があるように思えない。行く末の破綻が予感されてしまうのです。

それでも、役者さんたちはみな熱演だったと思います。小栗旬さんはやっぱりカッコよかったですし、萩原健一さんや松方弘樹さんの存在感はさすがです。やべきょうすけさんもおいしい役回りを活き活きと演じていました。敵役の桜丸を演じた田中圭くんは完全なるミスキャストではありましたが、彼なりに精一杯やっているようすは伝わりました。特に小栗さんとの殺陣シーンは見ごたえがあってよかったです。

それだけに、話の骨格が薄っぺらくて、語る言葉ひとつひとつがシラけて聴こえてしまうのが残念でした。


(2009/09/13@ユナイテッド・シネマ金沢)

★★