かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

フィッシュストーリー

「fish story(フィッシュ・ストーリー)」とは、(釣師がするような)大げさな話=「ほら話」のことを言うそうです。知りませんでした。1975年、パンク・バンド「逆鱗(ゲキリン)」がアルバム「FISH STORY」をリリースします。早すぎたパンク・バンドのラストアルバム。タイトルからしてマユツバモノです。ところがこのさっぱり売れなかったパンク・ソングが、時空を越えて数十年後に人類を救ってしまうのです。風が吹けば桶屋が儲かる的な、一見ムリヤリなこじつけ的連鎖関係とも思えましょうが、物事の因果とはえてしてそういうものなのでしょう。むしろ、ウソから出たマコトと言いたい。

ぼくは大学受験で幸運にも地元の国立大学と東京の私立大学に合格し、悩んだ末地元大学への進学を選びました。しかしこれがもし逆だったらどうでしょう。自分自身のその後の進路が変わってくるのはもちろん、出会うはずの人に出会わず、出会うはずのなかった人と出会うことになり、そうしたさまざまなまわりの人々にも実は影響を及ぼすのでしょう。たとえばこのブログにたまに登場する友人K。彼は大学の同級生ですが、もしぼくが東京の大学に進学した場合、地元に帰ったときに彼と出会う可能性はゼロとはいわないまでも、その関わりあいは今のような親しいものでは決してなかったでしょう。だとしたら友人Kの大学生活も、僭越ながらいささか違ったものになったのではないかと思われるのです(ましてやO主宰の昭和歌謡レコード鑑賞会にぼくが招かれることはなかったでしょう)。他方、もしぼくが東京の大学に進学していたら、東京のほうの大学の学生やバイト先の同僚、あるいは下宿先(ほぼ決まっていた)の大家さんや隣人など、結局出会わなかったそういう人たちと、実は出会っていたことになります。ひょっとすると、彼らもぼくとかかわったがゆえに今とは違った運命をたどっていたかもしれません。

そういった人生の重大な選択に限りません。ふとした何気ない行動だって見知らぬ人の運命を変えることがあるかもしれません。たとえばぼくが書いたこのブログ記事。アクセス数も少ないし、いたとしてもちらりと流し見するだけの人がほとんどでしょうが、もしかすると2、3人は興味を持って5分くらい時間をかけて読んでくれているかもしれません。で、そのうちの1人が、その5分のせいで外出の電車を1本遅らせたとしましょう。ところが実は1本前の電車だったら痴漢に間違われて警察に連れて行かれたかもしれません。だとするとぼくのブログがその人の冤罪を防いだことになったわけです。あるいは、別の人は電車を1本遅らせたせいで、初恋の女性と偶然再会するかもしれません。で、そのまま結婚なんてことだって絶対ないとはいえますまい。でも、それらのラッキーがぼくのブログのおかげとは誰も言わないでしょう。ぼくだってそんなこと企図していません。しかし結果として間違いなく遠因のひとつになるわけです。

こんな妄想、不遜に思われるかもしれませんね。でも、ぼくに限ったことではなく、誰だって、どの行動だってあてはまると思いますよ。あらゆる事象には原因があるのです。それは誰かの何気ない言動かもしれません。そこにまったく意図はなくとも、どこがで何かに作用していることがあるのです。世の中に意味のないことはないのです。

「FISH STORY」という1つの曲の因果。この曲を介して、1975年のレコード会社のさえない制作部員が、1982年の気弱な学生が、2009年のシージャック事件に現れた正義の味方が、めぐりめぐって2012年の救世主を呼んだのです。そして、それらがそれぞれ意味をもってつながっているのだという謎解きの描かれ方が素晴らしい。本作は時系列をあちこち飛びながら展開されていますが、物語の最終盤にそれはやってきます。「FISH STORY」の楽曲に乗って、4つの時代のエピソードの断片が、するするっと一本ににつながって疾走的に再現されていきます。「キサラギ」「アフタースクール」「幻影師アイゼンハイム」ほどの緻密さではないにせよ、伏線が次々と回収され、謎が一気に収束されていく快感は共通です。これは気持ちいい!!

そしてなにより、この「FISH STORY」という曲。時代のせいもあってさっぱり売れなかったという設定です。しかもその成り立ちも相当いい加減でした。だけど、聴いてみると実はとってもいい曲。

僕の孤独が魚だったら、巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出す
オレは死んでないぜ オレは死んでないぜ
音の積み木だけが 世界を救う
FISH STORY 逆鱗 歌詞情報 - goo 音楽

なにやら含蓄の深そうな、挑発的で予言的ないい歌詞です。この歌詞自体も実は物語的にイワクツキではあるのですが、実は本作全体の内容を暗示していたのでした。でも、よく考えてみたらこの詞だって原作者が創作したわけですから、物語を暗示しているのは当たり前なのでした。

歌詞だけではなく、「逆鱗(ゲキリン)」は音楽的にもカッコいいのです(昭和歌謡的には逆鱗のメンバーたちによる「長崎は今日も雨だった」パンク・ヴァージョンもひそかな聴きどころだったりします)。高良健吾くんのヴォーカルがとっても魅力的です。PVがまたいい!!

FISH STORY/逆鱗 【PV】


たしかに「キサラギ」や「アフタースクール」の緻密な謎解きにくらべると見劣りはしますが、本作はそのムリヤリ感ゆえに、どんなささいな出来事にだって、誰かにとって意味があるということを実感させてくれました。映画を観て「勇気をもらう」なんて恥ずかしいことは言いたくないのですが、そう言ってもいいくらいの気持ちです。すこし甘い気もしますが、今年は傑出した邦画がまだないので、フンパツしてって満点の5つ星をつけたいと思います。

(2009/05/18@ユナイテッド・シネマ金沢)

★★★★★

フィッシュストーリーフィッシュストーリー
逆鱗×斉藤和義

曲名リスト
1. フィッシュストーリー::FISH STORY
2. フィッシュストーリー::FISH STORY (1975年間奏無音Ver.)
3. フィッシュストーリー::何も無い
4. フィッシュストーリー::Summer Days
5. フィッシュストーリー::髪をなびかせた王子
6. フィッシュストーリー::最後の太陽
7. フィッシュストーリー::船上の君
8. フィッシュストーリー::シージャック~正義の味方現る
9. フィッシュストーリー::正義の味方ができるまで
10. フィッシュストーリー::ひとすじの光
11. フィッシュストーリー::夢は時空を越え
12. フィッシュストーリー::絶望と狂気
13. フィッシュストーリー::そして女神は微笑んだ
14. フィッシュストーリー::ゆみこ
15. フィッシュストーリー::何も無い (プロデューサーアレンジVer.)
16. フィッシュストーリー::FISH STORY 【Bonus Track】

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