かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

ラフマニノフ ある愛の調べ

ロシアの音楽家セルゲイ・ラフマニノフの半生を描いた作品。米国演奏ツアー中のラフマニノフが過去を回想するという構成になっていますが、それらのエピソードを時系列順に整理すると、ざっと以下のようになります。
貴族出身だったが生家が没落し両親が離婚→ピアノの才能を見出されモスクワ音楽院のズヴェーレフのもとに寄宿し師事→作曲に興味を持ち、ピアニストに専念させようとするズヴェーレフと決別→「交響曲第1番」を発表=指揮者の失態により初演は大失敗、酷評され自信を喪失し神経を病む→ダール医師の心理療法により徐々に回復→「ピアノ協奏曲第2番」を発表=自らの独奏により好評を得て名声を確立→従妹のナターシャと結婚→ロシア革命を逃れ米国へ移住→スタインウェイの協力により米国でピアノの演奏活動→「パガニーニの主題による狂詩曲」を発表

Wikipediaによりますと、これらはいずれも史実に沿ったものだということです。他方、この映画の軸のひとつとして、「交響曲第1番」「ピアノ協奏曲第2番」「パガニーニの主題による狂詩曲」といった代表曲の誕生秘話が描かれているのですが、これにはかなりフィクションが交えてあるようです。ところが、この誕生秘話部分があまり面白くないのが困ったところです。

まず「交響曲第1番」。妖艶な年上の女性アンナに捧げるために作った曲。初演が大失敗に終わり見捨てられてしまうのですが、このアンナという女性の素性が謎。人妻らしき描写もあるのですが、だとすると不倫ですか? 美談とは言いがたい気がします。

さらに違和感を覚えるのは、最も有名な「ピアノ協奏曲第2番」のくだり。ダール医師の催眠療法によって立ち直ったラフマニノフが、この名曲をダール医師に捧げたというのが一般に伝わるエピソードです。ところがこの映画では、のちに妻になるナターシャとダール医師は婚約中ということになっています。ということはラフマニノフはナターシャをダール医師から略奪した格好となり、恩を仇で返す結果になっています。しかもこの楽曲の直接の着想は、ナターシャの献身をよそに、教え子である女コミュニストに誘惑されて情を交わしたことから得たことになっています。裏切りやら女性に対するだらしなさやら、ラフマニノフのいい加減さがなんか納得いきません。

もっとも、そのようにラフマニノフが終始ダメダメだからこそ、最後の「パガニーニの主題による狂詩曲」についてのエピソードでも、妻ナターシャのけなげさが際立つともいえます。作品全体を貫くナターシャの献身とライラックの思い出がここで一体となり、美しいお話に仕上がっています。

だとすると、前2者のエピソードについても、観客がラフマニノフのだらしなさを憤るくらいの違和感があっても、これはこれでいい・・・のかな?

(2008/09/06@イオンシネマ金沢フォーラス)

★★★