かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

【OEK定期243M】群響&OEKオール・チャイコフスキー・プログラム

いま抱えている仕事は佳境を迎えております。ですが前日の土曜日は休日出勤し、目いっぱい働いてそれなりに以降の目途がたったので、今日の日曜日はきっちり休みを取らせていただきます。

で、今日は群馬交響楽団とOEKの合同演奏会にまいります。OEKの編成ではなかなか演奏されないチャイコフスキー交響曲が今日のプログラムには含まれております。群響の本拠地・高崎市は、今年2月に金沢市と友好交流都市協定を締結したそうで、そのお祝いの意味も兼ねた華やかな演奏会になりそうです。座席は2階中央ブロック最前列。こちらも絶好のポジションであります。

まずはプレコンサート。開場時間に合わせて始まるのですが、休日ですから徒歩で音楽堂でおもむいても余裕で間に合います。演奏はOEKが誇る原田智子さん&江原千絵さんのクール・ビューティ・ヴァイオリン・デュオ(?)。来週交流ホールでのコンサートで演奏予定のJ.S.バッハ、ミヨー、プロコフィエフの曲をいくつか。よどみなく美しい音色が素敵です。

続く本日のプレトークは、2008-2009シーズンのOEKコンポーザー・イン・レジデンスに就任した三枝成彰氏。現在、木村かをりさんがピアノを弾き、哲学者の中沢新一氏がナレーションを務める管弦楽曲の新作を制作中とのこと(9月の定期公演で初演予定)。本日の公演内容に関して、三枝氏いわく、チャイコフスキーは「作曲家が好きだといってはいけない作曲家3人のうちの1人」なのだそうです。残る2人はラフマニノフプッチーニ。彼ら3人に共通するのは、彼らの楽曲は官能的で「情念」が前面に押し出され、思想性・社会性が感じられない点だとか。そのため、音楽に理知的なものを求めるインテリ西洋人にとっては軽蔑されるべき存在なのだそうです。しかしながら、日本人はそんなチャイコフスキーが大好き。というのも、日本人は中世古代から、酒に酔い、食に酔い、月に酔い、恋に酔い、官能的なものに陶酔することを好む民族でありまして(公家などはむしろそうして陶酔できる感性こそが教養高い証だとする)、音楽についても、官能的な音楽こそが素晴らしく、それに酔いしれることはむしろ教養的なのだという価値観が存在するからだといいます。それゆえ、三枝氏も作曲家ではありますが、日本人として堂々とチャイコが好きだと公言するのだそうです。

というわけで、前置きが長くなりましたが、官能的なチャイコフスキーの世界のはじまりです。まずはOEKによる「憂鬱なセレナード」。OEKコンサートミストレルのアビゲイル・ヤングさんが、いつもと同じ黒のパンツスーツ姿でソリストを務めます。楽曲は恋人に捧げる「小夜曲(セレナード)」ではありますが、単に甘美なだけでなく「憂鬱」なセレナードであります。切ないのです。しかも情感たっぷりのチャイコ様ですので、それはそれは感傷的な曲でありました。ダイナミックな印象の多いヤングさんも、この切ない旋律を繊細に奏でておられ、絶品でありました。

続いてはOEKメンバーが退場し、入れ替わりで群響メンバーの登場。各パート数人ずつOEKからも増強され、12-10-8-6-6(くらい)の弦編成。曲はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番であります。冒頭のホルンによる印象的なモチーフと、弦楽部のジャン!でまず鳥肌。引き続き弦楽部により壮大なメロディが展開され、叩き付けるような規則的なピアノの和音で伴奏がなされます。ソリストはロシア出身のリリヤ・ジルベルシュタインさん。弦のボリュームにひとりで対抗できる力強い演奏です。第2楽章はピッツィカートに乗せるフルートがめちゃくちゃ綺麗。ロシア農民舞曲的な第3楽章では、井上マエストロのご機嫌なダンスも飛び出しました。

休憩をはさんでチャイコフスキー交響曲第4番。群響&OEKの合同演奏です。弦は17-13-11-9-7(くらい)の大編成となり、ステージ上の賑わいも壮観。各プルトとも表が群響メンバーです。OEKのコンサートでは指揮台なしの井上マエストロも、さすがに今回は指揮台に上ります。第1楽章冒頭は、ホルンとファゴットによる激情的なファンファーレで始まります。これが破綻もなく演奏され爽快。トランペットがこれに重層的に重なるとますます緊張感が漲り、逆に官能的な快感を覚えたり。その後全般的には悲劇的な旋律が繰り広げられつつ、この官能的ファンファーレが幾度か挿入され、第1楽章は相当にドラマティックです。オーボエの独奏が印象的な第2楽章が終わると、井上さんがいったん演奏をブレイク。マイクを取り出し、後半2楽章は各プルトの表と裏を交代すると告げました。「音色が変わるかな?」 いさかかびっくりしましたが、なかなかに興味深い趣向であります。そうして始まった第3楽章は、弦の楽しげなピッツィカートがしばらく続きます。やがてピッコロがかわいく響き、金管が控えめに行進曲風のメロディを鳴らします。農民の踊りと兵隊の行進を描いているとのこと。納得です。そしてフィナーレの第4楽章、本日今まで指揮棒なしで指揮してきた井上マエストロが、本日はじめて指揮棒を手にしました。その指揮棒を振り上げた瞬間、いきなり爆発的なフォルティシモが巻き起こりました。金管とシンバルがとりわけインパクト強烈。華やかな主題が繰り広げられ、ぐいぐい気持ちも盛り上がっていきます。その気分をスカすかのように、曲調がいったんふっと落ち着きますが、第1楽章の例の官能的なファンファーレが再び登場すると、いよいよクライマックスに向かって一直線。OEK渡辺さんがシンバルを連打します。高揚感はピークに達し恍惚の終結を迎えます。

何回かのカーテンコールの後、井上マエストロが高崎市金沢市友好の「オーケストラだるま」を持って再登場。群響・OEKがともに目を書き入れて友好の証にしようと粋な提案。群響コンマス長田さんが目を書き入れた後、OEK側の書き込む人として井上さんが指名したのは、聴衆の少年(笑)。「君が書くことが意味があるんだよ」とマエストロ。

そしてアンコールは井上さん自身の作曲作品から。「メモリー・コンクリート」と題したその曲は、井上さん自身の半生を描いたものだとのこと。本日はこの曲の「乾杯のシーン」という部分だけの演奏でしたが、打楽器が効果的に使われていたり、日本の民謡ふうのメロディが採り入れられていたり、弦楽器のグルーヴ感がノリノリだったりと、かなりおもしろいオーケストレーションだったように思いました。で、なぜ「乾杯のシーン」かといいますと、途中で管楽器の方たちがビールジョッキに擬した打楽器的なものをとりだして、互いに乾杯!と言わんばかりに打ち鳴らすという突拍子もない演出が登場するのです。これには笑いました。そしてラストのいい感じで盛り上がる中、最後の最後で銅鑼を鳴らすところで、渡辺さんが一瞬バチを落としてヒヤリとしましたが、すかさす拾い上げてギリギリセーフ。なかなかにスリリングな思い出とともに、印象深い1曲になりました。

どうやら通路やオルガンステージなどには補助席が出されていたらしく、興行的にもかなりの盛況ぶりだったようです。個人的には比較的聴く機会の少ないチャイコフスキーでありますが、その官能的な美しさを充分に堪能できた演奏会でした。

オーケストラ・アンサンブル金沢
第243回定期公演マイスター・シリーズ
~群馬交響楽団&OEK合同演奏会~
オール・チャイコフスキー・プログラム

日時:2008年6月29日(日)15:00~
会場:石川県立音楽堂コンサートホール
指揮:井上道義

チャイコフスキー
 憂鬱なセレナード op.26

 ~ヴァイオリン独奏:アビゲイル・ヤング
  管弦楽オーケストラ・アンサンブル金沢
  コンサートマスター:松井直

チャイコフスキー
 ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 op.23

 ~ピアノ独奏:リリヤ・ジルベルシュタイン
  管弦楽:群馬交響楽団
  コンサートマスター:長田新太郎

---休憩---

チャイコフスキー
 交響曲 第4番 ヘ短調 op.36

 ~管弦楽:群馬交響楽団&オーケストラ・アンサンブル金沢
  コンサートマスター:長田新太郎&アビゲイル・ヤング

(アンコール)
井上道義
 「メモリー・コンクリート」より「乾杯のシーン」