かっきーの雑記(仮)

あちらこちらで興味が湧いたものをとりあえず書き留めておく用。

善き人のためのソナタ

シュタージ(国家保安省)の諜報将校ヴィースラーの変節は、あれだけ国家と自らの任務に忠実でしたから少々唐突なきらいはあります。しかし、彼が心を動かされた瞬間の描かれ方は劇的で、有無を言わせぬ説得力を持ちます。「この曲を本気で聴いた人は、悪人になれない」という美しいピアノソナタ。盗聴器を通してこの曲を聴いたヴィースラーの頬を、思わずつつ~っと涙が伝うのです。

この物語はあくまでも静かに、終始淡々と進みます。 ヴィースラーはほとんど表情を変えません。それなのに、ひとつひとつの場面がそれぞれ強烈に印象に残ります。特に、変節後のヴィースラーの言動はあまりに人間的です。

そしてなんといっても、悲しい結末を迎えた後のエピローグ。これが秀逸なのです。暗鬱としたテーマのわりに、ラストがなんとも気高く爽快ですらありました。人間の尊厳が輝かしく、しみじみと感動を噛み締めるような素晴らしい映画です。

★★★★★